韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)と、北朝鮮関係のマーケティング調査を専門とするリサーチ機関のNKソーシャルリサーチは昨年、韓国に在住する脱北者414人を対象にアンケート調査を行った。
回答者の65.7%が「北朝鮮に送金した経験がある」と答え、26.6%は昨年も送金を行ったと答えた。送金先としては「きょうだい」が39.6%、「両親」が29.7%だった。1回あたりの送金額平均は151万ウォン(約14万6000円)、1年あたりの送金回数の平均は1.8回で、一昨年の1.6回より増加している。この調査結果から、年間に少なくとも約3億ウォン(約2896万円)のカネが北朝鮮に流れ込んでいることがわかるが、実際の額はこれを大きく上回っていると見られる。
北朝鮮に流れ込んだ資金は、ブローカーの手数料と保衛部(秘密警察)のワイロが差し引かれた後、ビジネスの資金として活用され、北朝鮮の市場経済化を下支えしている。
(参考記事:脱北者の送金が支える北朝鮮経済)
ところが、最近になって北朝鮮への送金が難しくなっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国・ソウル郊外の安山(アンサン)在住の脱北者、チェ・ボッカさんは、米国AP通信のインタビューに答えた。北朝鮮に残してきた75歳の母親は、毎年1月の誕生日になれば山に登り、中国キャリアの携帯電話を使ってチェさんと通話していた。チェさんは誕生日を祝う言葉を伝えて、送金の手続きを行っていた。
ところが昨年5月から電話がつながらなくなり、送金もできなくなった。国境を封鎖し、警備を強化する北朝鮮のコロナ対策のせいだとチェさんは考えている。チェさん同様に、北朝鮮に残してきた家族との連絡が取れなくなり、送金ができなくなっている脱北者が複数存在するとAPは報じている。
チョ・チュンヒさんは、北朝鮮に残してきた2人の子どもに毎月890ドル(約9万7000円)の送金を行ってきたが、一昨年11月から連絡が途絶えてしまった。別のブローカーからは、高額な手数料と引き換えに送金を請け負うと持ちかけられたが、多くの友人は手数料が落ち着くまで送金を見合わせているという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面現在、手数料は送金額の4〜5割にまで跳ね上がったと伝えられている。送金に伴うリスクが、それだけ高まったのだ。北朝鮮当局は近年、中国キャリアの携帯電話を国内情報の海外流出、海外情報の国内流入の元凶と見て、取り締まりを強化。昨年からはさらに厳しくなっている。また、コロナ鎖国が長期化するにつれ、密輸がますます難しくなり、ブローカーが資金切れを起こしていると、APは伝えている。
(参考記事:「赤い貴族」用マンションに住む北朝鮮兄弟、送金ブローカー業で逮捕)送金が滞るのは、韓国在住の脱北者側の経済事情もある。歌手として活動するチェさんは、コロナのせいでイベントが相次いでキャンセル、昨年の収入が例年の1〜2割にとどまったという。
韓国から脱北者の手を介して北朝鮮に流れ込んだ資金の一部は、ワイロの形で国庫に吸い上げられていたが、これが途絶え、貿易も密輸もできなくなったことで、北朝鮮は深刻な外貨不足に苦しんでいる。政府が取り締まりを強化すればするほど、自分の首を絞めることになるのだ。
(参考記事:金正恩氏が禁じた「税金外の負担」、強制加入の保険に化けて復活)