国際社会の経済制裁により、外貨不足に陥っている北朝鮮だが、韓国在住の脱北者が送る外貨、いわば「仕送り」に頼る北朝鮮庶民は少なくない。

米国務省が2014年に発表した報告書によると、脱北者が北朝鮮の家族に送金する額は、少なくとも1000万ドル(約10億2000万円)に達することが明らかになった。

「送金を取り締まるな」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民と連絡を取っているある脱北者は、別の脱北者と共同でブローカーを通じて北朝鮮の家族に送金しているが、その額は一ヶ月あたり2000ドル(約20万4000円)にもなるという。

海外に住む脱北者約3万人の半分が、毎月1000ドルずつ北朝鮮に送金したと仮定すると、総額は15万ドル(約15億3000万円)に達する計算になる。

韓国の脱北者団体「NK知識人連帯」によると、北朝鮮の内部文書には、額は明らかにされていないが、「脱北者からの送金は32の郡の人々に食料を与えられるほどの額だ」と記されているという。

北朝鮮に送金されたカネの一部がワイロや強制募金、上納金の形で当局の手に渡ることは事実だ。一方で、送金された外貨が市場に流れ込み、北朝鮮の「草の根市場主義化」を拡大させ、北朝鮮を内部から変えるという重要な役割を果たしている。

北朝鮮当局もそのことをわかっているのか、昨年秋に「脱北者からの送金を取り締まるな」との内部指示を出しているとNK知識人連帯が伝えた。

しかし、なぜか北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」は、大々的な取り締まりをはじめている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)と会寧(フェリョン)の保衛部(秘密警察)は今年3月、送金ブローカー数人を逮捕した。

中国の吉林省延吉市滞在中に、この事実を知った北朝鮮の送金ブローカーのキムさんは、身の危険を感じ、着の身着のままで韓国へと向かった。ところが、急な脱北だったため、自宅をほったらかしにしたままになったことが問題を引き起こす。

保衛部はキムさんの茂山の自宅を家宅捜索。送金した韓国の脱北者、受け取った北朝鮮の家族の個人情報が書かれた帳簿を押収したという。それに基づき、600人以上が連行され、取り調べを受ける大事件へと発展した。

この影響で、送金ブローカーがいなくなり、韓国在住の脱北者は、北朝鮮に送金ができなくなってしまった。そして、地域に流入する外貨が激減し、中国から食料品や生活必需品を輸入できなくなり、物価が高騰するという悪影響を及ぼしている。

今回の取り締まりには、金正恩氏の意向が働いているのか、地方の保衛部独自の判断なのかは定かではない。いずれにせよ、金正恩氏ですら脱北者からの送金を無視できないほどになりつつあるのが北朝鮮経済の現状だ。

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