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北朝鮮の各道や市の人民委員会(道庁や市役所)の部署である商業部。本来は、国から配給された食料品、生活必需品などを住民に安価で販売する役割を担う部署だが、配給システムが崩壊した今では、市場を管理し、一種の法人税を徴収する部署となっている。

咸鏡南道人民委員会商業部の部長が、不正行為を行っていたとして処分を受けた。普段から幹部の専横に苦しめられている庶民には受けのいい不正行為の取り締まりだが、問題の根本解決には程遠いのが実態だ。

現地のデイリーNK内部情報筋の伝えた事件の概要は、次のようなものだ。

朝鮮労働党第8回大会で示された経済発展と人民生活向上の貫徹のために、地方の経済機関に対する検閲(監査)が行われているが、先月中旬から10日間にわたって行われた検閲で、商業部のチョ部長(50代)が過去3年間、市場管理所、商業部に納められた毎月の上納金500ドル(約5万4000円)から1000ドル(約10万9000円)を横領していたことが判明した。

市場や商業施設の管理監督を行う立場のチョ部長だが、各市場に設置された市場管理所に対して、多額の上納金、つまりワイロを納めることを要求し、その額に応じて上部への報告に手心を加えていた。部長は、市場の視察を行うたびに、市場管理所に米ドルでワイロを支払うことを露骨に要求していたという。

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市場管理所とは、文字通り市場の管理を行う部署だが、商人からは市場管理費、つまり「ショバ代」を徴収する。そこに加えて自転車保管料も徴収し、一部は商業部に上納し、一部は自分の懐に入れる。それだけあって、コネとワイロなしでは市場管理所の仕事には就けないと言われている。

ちなみに、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が2018年に発表した北朝鮮の市場に関する実態分析報告書によると、北朝鮮当局は年間5600万ドル(約61億円)以上の収入を市場から得ている。北朝鮮有数の卸売市場、清津(チョンジン)の水南(スナム)市場だけでもその額は年間84万ドル(約9150万円)に達する。

(参考記事:北朝鮮、市場管理人という利権…着服し放題の「おいしい仕事」

市場へのコントロールを効かせたいと考えている当局は、各道の商業部、市、郡、区域の商業課、そして市場ごとにある管理所を通じてシステマティックな管理を行っているが、そのピラミッド構造の上層に行けばいくほど権力、権限は強大なものになる。

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そのトップにいたチョ部長は、権限を余すことなく乱用し、良い評価と引き換えにワイロを要求し、それを国庫に納めることなく着服していたという。

内閣の商業局はチョ部長に対して「社会主義商業管理の原則を毀損した」と非難しているが、下の部署に「国が苦しいときこそ、もっと支援すべき」などとプレッシャーをかけて、さらなるワイロを要求するなど、利権構造の中で度を越えた振る舞いをしたことで目をつけられ摘発されたのだろう。

事件を知った市民は憤慨しているという。それを意識したのか、当局は今月3日、多くのイルクン(幹部)や家族が集った席で、チョ部長に対して出党(労働党から除名)、撤職(更迭)処分を言い渡した。このような「恐怖心煽りまショー」は、北朝鮮の常套手段だ。

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その上で、中央検察所に事件の処理を求め、住宅、全財産の没収、そして家族もろとも道内の洪原(ホンウォン)郡普賢里(ポヒョンリ)の農場に追放する処分が下された。道庁所在地の咸興に隣接した地域で、まだ軽い処分に属するとは言え、左団扇で暮らしてきた部長と家族にとってはつらい日々となるだろう。

(参考記事:「見るだけで心が痛む」極貧の北朝鮮国民が迎えた残酷な新年

かくして事件は一件落着となったが、法的根拠を欠いた「税金外の負担」の問題はそう簡単には解決しない。幹部と言えどもコメ1キロ分にも満たない超薄給に苦しめられ、ワイロや上納金なしでは普通の生活すら営めないという現実を無視した給与体系の改善が先決されるべきだが、国庫はすっからかんで、高級幹部から末端の職員に至るまで、まともな給料を払えるほどの余裕など、北朝鮮政府にはない。

海外からの投資を募ろうにも、国際社会の制裁でその道も絶たれている。結局は、幹部をスケープゴートにして血祭りにあげることで「やってる感」を演出し、裏では従来の方式を続ける、という以外に方法がないのだ。

(参考記事:金正恩氏の「税金外の負担」禁止令、違反事例相次ぐ