ある若者が北朝鮮のヤミ金を葬った「最後の切り札」

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北朝鮮では、カネを貸して利子を取る行為を刑法で禁じている。

第113条(高利貸罪) 高利貸行為を常習的に行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状の重い場合は3年以下の労働教化刑に処す。

法律は存在しても、実際の北朝鮮はヤミ金天国だ。その弊害は貧しい農村部においてより深刻に現れており、当局はしばしば取り締まりを行っている。

例えば、社会安全省は1997年8月5日、「穀物を使って『高利貸し行為』をすれば、場合によっては銃殺刑まであり得る」と発表した。これは取り締まりを逃れるため、現金ではなく、穀物を貸して利子を取る行為が蔓延していたためだ。

布告から20数年。ヤミ金業者が見せしめのために公開処刑されたり、管理所(政治犯収容所)送りにされたりした事例は報告されているが、なし崩し的に市場経済化した北朝鮮の経済に欠かせない存在となっているだけに、今に至るまで根絶には至っていない。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、ある悪徳ヤミ金業者の摘発事例を伝えている。

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会寧(フェリョン)の協同農場の作業班長を務める50代のアンという男性は、以前から持っていた財産を種銭にして、貧しい農民を相手にヤミ金業を営んでいた。

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一般的に北朝鮮の農村で行われているヤミ金は、春にカネや穀物を貸して、収穫後の秋に2倍にして返済させるというものだが、アン班長は2.5倍の利子を取り、返済に行き詰まった債務者の家に押しかけ、住宅、土地、家畜などを奪うという、悪質な取り立てを行っていた。

「アンはぼろ儲けし、家族だけでは管理できないほど、想像を絶する規模の土地を持つことになり、人を雇って管理させていた」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮「ヤミ金」トラブルで一家心中も

財産を奪われ生活が破綻した人々は、農村を捨てて働き口のある都会に出ていってしまう。機械化が遅れている北朝鮮の農場で、人口減少は生産高の減少に直結し、災害やコロナ対策による食糧難を加重させる。

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アン班長一家は、侵入者を防ぐため外塀を高くした家に住み、ひそかに家政婦や従業員を雇い入れて、農場や牧場を営んでいた。その暮らしぶりは、封建時代の地主を彷彿させるものだったという。

北朝鮮では財産を見せびらかすと、地元幹部らからたかられたり、あれこれ理由をつけて財産を奪われたりしかねないのだが、幹部をカネで買収していたことから、アン班長は安心しきっていたのかもしれない。

実際、一家の悪辣な行為については道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)に複数の信訴(告発)が寄せられていたが、取り上げられることがなかった。ところが、ある勇気ある青年の行動が、事態を動かした。

長い兵役を終えて村に戻ったばかりのこの青年は、両親がアン班長から毎年穀物を借りるも、返済できずに借金が雪だるま式に増え、自宅、家畜、土地など全財産を奪い取られたのを知り、怒りに震えた。そして、隣人から証言を集めて、道党ではなく平壌の中央党(朝鮮労働党中央委員会)に信訴を提起した。

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通常、信訴を行うには、途中で妨害されたりもみ消されたり、或いは加害者から逆襲されたりしないように、強力なコネを使うなどの「事前工作」が必要だ。青年がそれを行ったのか、または別の信訴もみ消し事件で中央党信訴担当部署の人員が大幅に入れ替えられた直後で、タイミングがよかったのか、詳細は不明だが、訴えが受け入れられるに至った。

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中央党はアン班長の行為について調査を行い、先月中旬に自宅を急襲、夫婦と娘とその夫までトラックに乗せ、どこかへ連れ去った。また、家と財産を没収し、土地は協同農場に返還された。一家がどこに連れ去られたのか知る者はいないが、状況からして、おそらく管理所(政治犯収容所)送りになったのだろうというのが村の噂だ。

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