北朝鮮にも『韓流』の風が吹いている。日本や中国、ベトナムなど東南アジアを吹いた『韓流』の風は北進を続け、ついに北朝鮮全域を覆った。2000年代初期から始まった韓流は、すでに一部の農村地域や高齢者世代を除き、事実上北朝鮮を制覇した。

最近、北朝鮮の住民に大人気の韓国ドラマが『笑え!トンヘ(KBS)』『マイドス(SBS)』だ。特に、若い世代はタイトな『スキニー・ジーンズ』や『ハイ・ヒール』を履き「腹が減っても韓国の歌は聴き、映画は見る」と言われるぐらい『韓流』の最大の消費者になった。

平壌(ピョンヤン)の大学生は公開された場所でも、歌詞なし伴奏だけの韓国歌謡に合わせて踊る。北朝鮮で韓国文化に触れると処罰されるからだ。デイリーNKは、中朝国境で出会った北朝鮮の住民たちに『韓流の今』を聞いてみた。

▲『笑え!トンヘ』から『スキニー・ジーンズ』まで。全ての階層で『公然の秘密』=2000年代初頭までは中国朝鮮族の間で人気を呼んだ韓国ドラマなどのヒット作品が、平壌(ピョンヤン)や大都市で人気が出るぐらいだったが、今では『韓国産』というとすぐに伝わる。

ピョンャ唐ナ商売をするキム・ウンヘさん(仮名:40代女性)は、10年も韓流ドラマを見ている。キムさんは「敏感な若者達は、いくら国が統制してもこっそりと韓流ドラマを見る。2005年に、夫の実家に言った時、VHSテープで『天国の階段(2003)』『男の香り(2003)』を初めて見た」と述べた。それ以外にも少なからず韓流ドラマは見たと話す。

キムさん「最近、(韓国で)人気があるヒョン・ビンよりはクォン・サンウの方が魅力がある。クォン・サンウのドラマは10回ぐらい見た。ヒョン・ビン、クォン・サンウ、イ・ボムス、コ・ヒョンジョン、ハ・ジウォン、チェ・ヨジン、イム・ヒョンシク、イ・スンジェなどを知っているが、イム・ヒョンシクは自分のイメージをうまく生かして演技も上手だ」と話した。キムさんは、最も演技が上手い俳優として、男優はイ・ボムス、女優はハ・ジウォンを選んだ。イ・ボムスの演技は、「味があっていい」と称賛する。

最近では、最新ドラマも一般住民が接する事ができるほど、流通速度も早くなった。咸北(ハムブク)出身イ・ヘスク(30代女性)さんは、「最近では『笑え!トンヘ』も『マイドス』も面白かった」と述べたが、彼女に会った時、「マイドス」はまだ韓国でも放映中のドラマだった。

比較的、外部情報が伝わりにくい農村でも韓国映像が公然と広まるぐらい『韓流』は北朝鮮全域に広まっている。平南(ピョンナム)、徳川(トクチョン)協同農場の農場作業員は、「知り合いが外国から持ち込んだ韓流ドラマを一度だけ見た。農村は、テープを手に入れるのが大変だ。それでも、信用できる知り合いの間で、録画されたテープやVCD(CDメディアに映像を録画したもの)で、韓国の映像や翻訳された外国の映像を見る」と話した。

韓流ドラマだけでなく韓国歌謡も広がっている。 キム・ソンファさん(南浦製鉄所物資供給員)は、「平壌(ピョンヤン)の大学生が、歌詞のないメロディだけの早いテンポの韓国歌をバックに駅で踊ったりしています」と話した。先述のイ・ヘスクさんも「若者達は、踊りたくしょうがないから歌詞がない伴奏で踊るわけです」と言った。当局の青年近衛隊は取り締まろうとするが、伴奏だけで歌詞がないので防ぎようがないとのことだ。

韓流俳優のファッションやヘアースタイルなどを真似る若者たちのおかげで『ペンテ・ズボン』『チン・ズボン』『サム・ピース』などの言葉もできた。『ペンテ・ズボン』と『チン・ズボン』は、タイトな『スキニージーンズ』のことであり、『サム・ピース』は『ワン・ピース』を変えた造語だ。キム・ウンヘさんは、「毛皮のコートと、スキニーが流行している。特に平壌市はトレンドが早く、サムピース(ワンピース)も流行っている。俳優のようにロング・ヘアーを解いたまま、短いスカートを着たり、(男性は)ヒョン・ビンのように頭をたてたり髪を染めることもある」と説明した。

韓国製の製品は、商売人の間では『なくて売ることが出来ない』人気商品だ。他の製品より、品質が良く2〜3倍高い値段でも売れるからだ。朝鮮族で北朝鮮と貿易を営むパク・ヨンミンさんは「貿易関係の責任者や、余裕のある幹部はいい物を買う。(幹部の)家に行けば、韓国製品ばかりだ」と話した。

キム・ウンヘさんも「中央党、保衛部、軍部などの特権階級でこっそり資金を持っていたり、商売で金儲けをした人々は化粧品も全て韓国製だ」と話した。イ・ヘスクさんも「一部の裕福な人は携帯電話を持っている。北朝鮮製だが、韓国サムソンの「Any Call」が(良いことは)皆知っている。韓国製や日本製の化粧品や薬が中国を通じて入ってくるが、全て値段は高い」と話した。

▲韓国の映像は、どのように流通するのか?=北朝鮮の『韓流』は中国が発信源だ。中国の延吉(ヨンギル)、丹東(タントン)、瀋陽など、朝鮮族が多く住む地域のネット・カフェで衛星を通じた韓流ドラマをリアルタイム録画。そして韓国放送を見たがる朝鮮族の若者に売る。この不法に録画された韓国放送が、今度は不法VCDDやDVDにダビングされ北朝鮮の密輸業者によって販売される。

キム・ソンファさんは「中国と北朝鮮を行き来する身内を通じて韓国放送に初めて接した。その後、中国から北朝鮮に(直接)DVDとVCDプレーヤーを送ったことがある」とのことだ。

キム氏は「主に、外国にいる幹部が(韓国映像物)を持ち込む。そして貿易商人の子弟を通じて広がる」と付け加えた。イ・ヘスクさんは「密輸商売人が、一般家庭にDVDプレーヤーを販売するが、とても高い。ただ、発展した文化への好奇心が強いので、食べ物を節約してでも韓国映像を見ようとする。余裕があればプレーヤーを買う」と付け加えた。北朝鮮では、米1キロが約2000ウォン(20日基準)だが、韓流ドラマのVCDは、一枚約3,000ウォンぐらいで取り引きされるほど高額だ。

『韓流』の広がりは、映像を見るためのハードの利用事情にも変化させた。2000年代初頭は、TVアンテナで中国・朝鮮族のTV放送や中国産のVCD(DVD)を通じて韓国映像に接するしか方法がなかった。しかし、2005年には当局の宣伝手段としてDVDプレーヤーは合法化され、さらに一般家庭に普及したコンピュータのハードディスクや不法VCDを通じて、韓国映像が広がるきっかけとなった。

最近は、保衛員の取り締まりを避けるため、メモリーカードまでも若者を中心に急速に広がっている様子だ。キム・ウンヘさんは、「息子達も、以前はVCDを持っていたが、今はメモリーカードだ。いくら、探知機などで取り締まりをしてもプレイヤーに挿入しておけばわからない。それでも、見つかれば追放されたりするので、友人宅でノートPCを使って最新のものはまとめたりする」と話した。

パク・ヨンミン(貿易業者)さんは「北朝鮮の若い子供は、食べるものがなくても(韓国の)歌や映画は見ようとするので、(北朝鮮商人は)MP3のようなデジタル機器を多く手に入れて、中国語学習用として韓国製電子辞典などのも売る」と話した。

衛星TVや対北短波ラジオを通じて、リアルタイムに韓国の情報に接することもある。キム・ソンファさんは「北朝鮮でラジオ・フリー・アジア(RFA)(対北短波ラジオ)を聞いたことがある」と話した。キムさんは「衛星アンテナを通じて、36個のチャネルを見ることができる」と話した。

電力事情が悪い北朝鮮で、映像を見るためにはバッテリーが必需品だ。イ・ヨンシルさんは「(よく電気が停まるから)各家庭では、電気が通っている時間に、携帯用バッテリーや自動車のバッテリーに充電しておいて、TVを見たり映像を録画したりする」と説明した。

▲北の若い世代が『南への憧れ』…体制変化につながるのか?=北朝鮮の『韓流』は、特に若者がリードしている。キム・ソンファさんは「平壌市の学生の大部分は、韓国の映像物を見たせいか踊ったりして遊ぶのが好きなようだ」イ・ヘスクさんも「若者はスキニー・ジーンズをよく着る。当局はジーンズを着るなと言うが、ヘアースタイルや紙の色など外見には神経を使い、流行には敏感だ」説明した。

イさんは、娘にダボッと服を買ってあげたのだが、「お母さん、これは流行遅れよ」と言われたという。イさんは「最近では、服をタイトにお直しする店があるほど、子供たちは、タイトな韓国服を好んでハイヒールを履く。また、若い男性は、英語がプリントしてある服をよく着る。英語の意味を知らずに着れば関係ないが、意味を分かっていれば取り締まりの対象になる」と話した。また「韓国風に髪の毛も整えて、ソウルの言葉を真似て『オッパ(お兄さん)』などと呼ぶ」と付け加えた。

北朝鮮の『韓流』の風は、統制された情報の中で生きてきた北朝鮮の住民たちに、外部情報を提供し、北朝鮮社会と韓国社会を比較させるという点で、その波及効果が体制抵抗につながるのかという事も注目される。

『韓流、北朝鮮を揺さぶる』の著者である、カン・ドンワン統一研究院責任研究委員は「北朝鮮住民は韓国ドラマにあらわれた発展の姿を見ながら、北朝鮮の宣伝がウモナあることを悟ると同時に『私も、あんな所で住みたい』という幻想と憧れを抱く。韓国への憧れが体制へ抵抗する直接的な要因になることは難しいだろうが、一定レベルの体制不満が、体制を変革するきっかけとなるだろう」と指摘した。

しかし、北朝鮮当局の一方的な宣伝と扇動に慣らされた北朝鮮の住民が、『韓流ドラマ』『韓流映画』という『作られた虚像』に接しただけで、韓国の現実を判断するのは難しいという限界も指摘される。

イ・ヘスクさんは、「いい作品もあるが、暴力的で人を殺すようなヤクザ映画は好きではない。恋愛ドラマでもあっちの人と付き合ったり、こっちの人と付き合ったりと節操がない」との拒否感を浮?オた。イ氏によれば「北朝鮮では、映画のように行動しろと宣伝し教養するものだ。韓国映画も、節操のない恋愛をしろと宣伝しているみたいだ」とのことだ。

その一方で、イさん「韓国は、生活が大変だという北朝鮮の教育をそのまま信じてきたが、映画を通じて韓国も良心的で道徳的で人情があり、いい生活をしていることを知った」と肯定的に答えた。

カン・ドンワン研究委員は「韓流ドラマを見て韓国へ来た脱北者の一部は、韓国ではたくさん金を儲けられるとの幻想を持って来る場合もある。しかし、注目すべきは『韓流』によって(北朝鮮住民たちが)韓国社会の自由を見るきっかけになったことだ」と指摘した。