昨年4月、北朝鮮の山林経営所の作業班長が処刑された。家族や同僚を食糧不足から救うために、金正恩党委員長の指示に背いて、山に植えた苗木を抜いてトウモロコシを植えたというのが、彼の「犯罪」だった。
山奥の村の話が海外に伝わることを見ると、人を救おうとした人が命を奪われるという理不尽極まりない話は、そこらじゅうに転がっているのだろう。
(参考記事:「金正恩の木を抜いたから」同僚思いの作業班長が公開処刑に)
「工場の労働者の食糧問題を解決するためだった」
こう釈明して、自分たちにかけられた容疑を晴らそうとしたのは、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)の編織物工場の幹部たち。ところが、これが大ウソだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、元山編織物工場の貿易担当のイルクン(幹部)、保衛指導員ら3人、貿易機関のイルクンは先月、国の承認なしに中国から食用油、小麦粉、肥料を取り寄せた。船が元山港に入港させられなかったため、首都・平壌近郊の南浦(ナムポ)港から陸路で元山まで輸送した。
現在北朝鮮では、新型コロナウイルスの「超特級非常防疫措置」が行われ、地域感の移動が禁じられ、以前にも増して密輸への取り締まりが強化されている状態だ。そのあおりで、各地で食糧が不足、餓死者を出す事態となっている。
(参考記事:北朝鮮の北東部で物価高騰「路上で一家4人が餓死」)誰かに密告されたのか、事の次第が中央党(朝鮮労働党中央委員会)の耳に入り、事件の関係者らは金才龍(キム・ジェリョン)党副委員長が率いるチームの検閲(監査)を受けることになった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面容疑をかけられた幹部らは、「労働者を救うため」と言い訳したが、あっという間にウソがバレてしまった。
彼らが密輸したもののうち、肥料は隣接する郡の農場に売り払っていたことが判明した。また、食用油と小麦粉の9割は、工場の幹部、貿易機関のイルクンに加え、元山市の安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)の幹部に分け与え、残りの1割だけを労力革新者と認められたごく一部の労働者に、旧正月に特別配給として渡すために倉庫に保管しておいたという。言い訳のネタに使われた労働者たちから、怒りの声が上がっているのは言うまでもない。
金才龍氏は、彼らの行為についての検閲結果の報告を見て、「物品の取り寄せの有無とは関係なく、政府の政策指示に臨む姿勢が甚だしく間違っている」とし「国を欺瞞する行為」だと激しく批判した。一連の密輸を悪質な違法行為と見なし、関連者全員を解任し、処罰をするよう指示を下した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面工場幹部と貿易機関のイルクンに対しては解任、撤職(更迭)の処分が下されたが、食糧を受け取っていた安全部と保衛部の幹部に対する処分はなされたのか、情報筋は伝えていない。いずれにせよ、今までの事例を考えると、処刑を含む極刑が下される可能性も排除できない。
(参考記事:違反者は軍法で処刑…北朝鮮の厳重なコロナ対策)