北朝鮮は、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐため、今年1月末から国境の封鎖、貿易の停止という厳しい措置を取っている。それでもなお、監視の目をかいくぐって密輸が横行しているという。
このような現状に対して、政府と感染病対策を取り仕切る中央人民保健指導委員会は、より強い姿勢に出たと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
当局は新型コロナウイルスの流入を阻止するためには「いかなる特殊(例外)も許されない」と強調していると伝えた。これは誰であれ、中央人民保健指導委員会の指導に無条件で従わなければならないということだ。
当局がここに来て国境封鎖を改めて強調しているのは、両江道で密輸が後を絶たないためだ。
「現在、両江道では非常防疫体系に従わず、隔離された数十人の密輸業者と商人がいる。彼らは隔離が解除されれれば、管轄の保安署(警察署)と中央人民保健指導委員会の結論で処罰されるだろう」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面すでに処罰された事例も続出している。デイリーNKは今年2月、中国の密輸業者を通じてスティックコーヒーと軍靴を密輸した国境警備隊員2人が摘発された事例を報じたが、彼らはその後、1ヶ月間の批判書作成という処罰を受け、夜間警備からも除外された。
(参考記事:北朝鮮に「スティックコーヒー」を密輸し逮捕された国境警備隊員)この批判書とは形式的な始末書ではなく、厳しい自己批判を文章にまとめて提出し、それを批判されるという厳しいものだ。
例えば、留守の間に大雨が降り、家にあった金日成主席、金正日総書記の肖像画を濡らしてしまった女性は、忠誠心が足りなかった、革命精神で武装できていなかったなだといったことを書かされた。雨で肖像画が濡れてしまったことも忠誠心が足りなかったせいにされてしまうのだ。
(参考記事:大雨で金正日氏の肖像画汚損、一家の主が処罰される)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
とは言え、批判書作成で済まさせた国境警備隊員はかなりマシな方だ。当局は、国境封鎖の違反行為に対して「重い場合には、軍法により裁くこともある」と警告している。
実際、デイリーNKの平安北道(ピョンアンブクト)の軍の情報筋は今年2月、国家保衛省(秘密警察)が「企てられているすべての密輸、密売、輸出入行為を軍法で裁け」「これは最高司令官(金正恩氏)の命令だから、いい加減に扱ってはならない」という指示を、各国境警備隊に下したと伝えた。実際、規則を破って中国人と接触していた保衛指導員が銃殺されている。
(参考記事:北朝鮮、感染者を処刑か…金正恩式「新型コロナ対策」の冷酷無比)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面国の承認を受けていない密輸は「利敵行為」とまで言い切っているが、言い換えると国の承認さえ受ければ密輸は可能ということだ。自らが策定した法律を自らが破る。これが北朝鮮の法治の現状でもある。
(参考記事:コロナで国境封鎖の北朝鮮、マスクや日本製家電の密輸は継続)情報筋は「非常防疫体系は地域幹部の権力や特恵も通用しないとい点で今までの統制とは異なると見られている」とし、「ウイルス防疫と関連してちょっとした逸脱でもあれば、道級幹部と言えど処罰は免れないというのが一般的な認識」と語った。
情報筋によると、中央人民保健指導委員会に所属する地域の医師は、非常に強い権限を持たされており、各郡に配属されている地域担当の医師も、数人の隔離対象者を毎日検診し、一種の監視まで行なっている。
北朝鮮では、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから、中国との密輸が盛んに行われるようになった。当局は取り締まりを行ってきたが、「今まで密輸はいかなる手段を使っても防げないものだと認識されてきた」(情報筋)というほど地域経済に深く組み込まれたものだった。
しかし、今回の国境封鎖で、感染を恐れて自ら密輸から足を洗うという人が増えていると情報筋は伝えている。