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双方は8月22日から板門店(パンムンジョム)で、危機回避のための高官協議を行った。そのことを、朝鮮中央通信は北朝鮮メディアとしては異例のスピードで速報し、次のように伝えた。

北南高位級緊急接触が行われる

【平壌8月22日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員、共和国国防委員会副委員長の黄炳瑞・朝鮮人民軍総政治局長と朝鮮労働党中央委員会政治局委員である党中央委員会の金養建書記が8月22日午後、現事態に関連して大韓民国青瓦台国家安保室の金寛鎮室長、洪容杓統一部長官と板門店で緊急接触を行うことになった。---

韓国を正当な国家と認めない北朝鮮は通常、こうした記事では「南朝鮮」や「南側」と表記する。「大韓民国」と正式国名で呼ぶのは極めて異例で、韓国側が強く要求した結果であるのは明らかだ。つまりはそのような要求を受け入れてでも、北朝鮮はより切実に、危機回避を望んでいたということだ。

高官協議は、25日までかかって合意に達した。北朝鮮は、地雷爆発で韓国兵士が負傷した件について「遺憾の意」を表明、韓国は対北宣伝放送の中止に同意した。双方は同時に、関係改善のための当局者会談の開催や、民間交流の活性化を含む6項目の合意を発表した。

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朴槿恵政権は、強い姿勢で平和を勝ち取ったと誇り、朝鮮半島情勢はしばらく安定するものと期待された。

この「8月危機」が、金正恩氏にとって強烈な体験であったのは明らかだ。翌年1月1日に発表した「新年の辞」で、同氏はこのように語っている。

「祖国統一と北南関係の改善を望まない反統一勢力は、戦争策動に狂奔しながら交戦直前の危険極まりない事態をつくり出し、内外の大きな憂慮を呼び起こしました。南朝鮮当局は、北南対話と関係改善の流れに逆行し、われわれの『体制変化』と一方的な『体制統一』を公然と追求しながら北南間の不信と対決を激化させました」

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このほかにも金正恩氏は、同じ「新年の辞」の中で「(昨年の)戦争の危険」「一触即発の危機」「昨年の8月事態」「全面戦争へと広がりかねない」などと、繰り返し8月危機に言及している。金正恩氏はトランプ米大統領が朝鮮半島近海に航空母艦を派遣した2017年の緊張については、このような振り返り方はしていない。

北朝鮮の指導部は8月危機に際し、どのような理由から韓国に「折れる」ことを決めたのかは推測するしかない。おそらく北朝鮮は、すでに核実験こそ行っていたものの、戦力化には至っていなかったのだろう。核兵器以外で脅威とされていたのは、軍事境界線近くに配備されソウルを射程に収めている大量の長距離砲だが、それにも何らかの重大な欠陥があったのかもしれない。あるいはもっと全般的な意味で、「戦争には耐えられない」と判断した可能性もある。

いずれにせよ、金正恩氏は8月危機を教訓とし、核兵器の戦力化を急ぐことを決断したように見える。その号砲となったのが、2016年1月6日に行われた4回目の核実験だ。

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関係改善をうたった韓国との合意は、北朝鮮が約束した対話に応じようとせず、2015年末の時点で骨抜きになっていた。金正恩氏は自国が弱い立場に置かれたままでの関係改善を良しとせず、韓国との合意を時間稼ぎに利用したのだろう。

そこから北朝鮮がさらに2回の核実験を強行し、弾道ミサイル技術の完成に向けて突っ走ったのは周知のとおりだ。金正恩氏が2018年になって米韓との対話に乗り出したのは、韓国との軍事バランスで優位に立ち、米国の先制攻撃さえ抑止できる力を持てたと確信したからだろう。

とはいえ、核兵器の戦力化で北朝鮮の軍事力が無敵になったわけではない。