北朝鮮は最近、韓国軍のステルス戦闘機導入にナーバスな反応を見せるようになっている。北朝鮮のような絶対的独裁体制の弱点は、ほかならぬ独裁者にある。ステルス戦闘機に気配もなく侵入され、金正恩氏の居所をピンポイント攻撃されたらそれで体制は終わりかねない。
そのようなリスクは、核兵器による報復意思を示すことで減らすことができる。しかし、金正恩氏が亡き者にされた後、残された高官たちは、報復による破滅を覚悟で核ミサイルのボタンを押すことができるのだろうか? 仮に、米韓などが何らかの根拠に基づき「押せるはずがない」という判断を下すようなことがあれば、金正恩氏の身の安全は脅かされることになる。
ただ、そのような危険性にさえ、金正恩氏は手を打っているようにも見える。権力中枢における、妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の台頭がそれだ。唯一的領導体制を敷き、独裁者個人を絶対の指導者としてきた北朝鮮にあって、自らの「意見」を発信することが許された金与正氏は特異な存在だ。もしも金正恩氏の死後、金与正氏が自動的に指導者となる仕組みを完成させられるのなら、また金与正氏が、兄の亡き後にも核を武器に戦うことのできる「ガッツ」を外部に示すことができるなら、北朝鮮の軍事的抑止力は強力さを増す。
このように振り返ると、金正恩氏は実に充実した5年間を送ってきたと感じざるを得ない。それはもちろん、大衆へのパフォーマンス重視のトランプ大統領や、北に融和的な文在寅政権の誕生といった予期せぬ幸運に助けられてのものではある。しかしそれでも、金正恩氏はこの間、軍事的な弱さを克服する戦略を成功裏に進めてきたと言えるだろう。
翻って、米国や韓国、そして日本はどうか。経済制裁を続ける以外、北朝鮮を非核化するための戦略などないも同然だ。そのような戦略は、今後しばらく生まれてくる気配すらない。もしこのまま行くならば、金正恩氏が次の5年間にどのような戦略を描いているにせよ、それを実現させてしまう可能性は低いとは言えないだろう。
(ジャーナリスト 李策)