「絶対ゆるすな」金正恩命令に狙われた拷問部隊幹部とその妻たち

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日本の行方不明者発見活動に関する規則は、第2条で行方不明者の定義をこのように定めている。

「生活の本拠を離れ、その行方が明らかでない者」

一方の北朝鮮では、民法22条で「最後の便りがあってから3年過ぎても便りのない公民」と定めているが、この条文から見えてこない行方不明者の扱いがある。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のとき、多くの人が食べ物を求めて家を出て行方不明になってしまったが、その中には国境を川を渡り脱北した人もいた。2016年に台風10号(ライオンロック)で被災した地域でも、国境警備の設備が破壊された隙に、多くの人が脱北したと伝えられている。そのため、行方不明者というだけで十把ひとからげにして「政治的に問題がある」と見なされてしまう。

残された家族も同様の扱いとなるので、司法機関の幹部にワイロを掴ませ、死亡者として住民登録を偽造させる。

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このような不正行為は広く行われてきたが、運が悪ければ命取りになりかねない。

開城(ケソン)のデイリーNK内部情報筋によると、開城市保衛部の反探課(スパイ取り締まり担当部署)の課長と捜査課長は、行方不明者21人の死亡処理確認書と、それを裏付ける第三者保証文書を偽造し、安全部(警察)に提出していた。もちろん行方不明者の家族からワイロを受け取った上でのことだ。

秘密警察である保衛部は、拷問や公開処刑、政治犯収容所の運営などを担って金正恩体制の恐怖政治を支えてきただけに、様々な権限を握っている。

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(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

ところが運悪く、大事件が起きてしまった。

先月24日、脱北して韓国で暮らしていた男性が、密かに北朝鮮に戻っていたのだ。当局はこの男性が「悪性ウイルス」、つまり新型コロナウイルスの感染が疑われる患者であるとして、開城市を完全封鎖する措置を取った。

(参考記事:「コロナ感染」の脱北者男性、北朝鮮で当局に自首か

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当局は、この件をきっかけに、かねてから抱いていた「住民が脱北してもその経緯などに関する調査がまともに行われない件」について、金正恩党委員長に報告した。

金正恩氏は「法的文書をもてあそぶ者どもを絶対に許すな。そのような輩が再び現れないよう、徹底的に対策を取れ」との指示を下し、開城市保衛部に対する検閲(監査)が行われた結果、2人が逮捕された。

取り調べを受けた2人は、今月中にも処刑されると見られている。一方の2人の家族だが、通常なら当局は、妻に対して離婚という選択肢と考える時間を与える。つまり、政治犯となった夫と縁を切ることで、自分と家族の身を守ることを許すというものだ。

ところが、今回は自宅を急襲し家と財産をすべて没収した上で、家族全員を咸鏡南道(ハムギョンナムド)の耀德(ヨドク)にある15号管理所(政治犯收容所)送りにしたというのだ。開城市民の間では「妻も関与していたのではないか」という疑惑が膨らんでいる。最近の収賄の摘発事例を見ると、妻が何らかの形で関与している場合が多いという。

一方、平壌市の幹部が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると今年6月、平壌市に住んでいた30世帯が黄海道(ファンヘド)の山奥の村に強制追放された。いずれも、家族の誰かが労働者としてロシアに派遣され、行方不明となった人たちだ。

こちらでも、事前通告がなくいきなり追放の措置が取られた。黄海南道(ファンヘナムド)の情報筋によると、追放先は新院(シヌォン)郡の霊月里(リョンウォルリ)、長錦里(チャングムリ)、載寧(チェリョン)郡、新渓(シンゲ)郡の山奥の農場で、到着した次の日から農作業を強いられている。これら地域の中には、歴史上一度も水道の恩恵を受けたことがないほど遅れた地域もあり、平壌暮らしに慣れた身には辛いだろう。

(参考記事:北朝鮮山間部の悲惨な「水事情」…汚染水で皮膚病も

かつては、咸鏡北道や両江道などの北部山間地に送られることが多かったが、行方不明になった家族と連絡を取り、国境を越えて脱北する可能性が高いと見て、平壌より南の地方に追放するようになっている。

当局は、平壌市民の食糧配給が困難となり、その解決策として、人口を無理やり減らすために様々な人を平壌市から追放しているが、行方不明者家族の追放も、不穏分子の根絶だけでなく、「口減らし」の意味合いもあるものと思われる。

(参考記事:北朝鮮「軍将校30年生活」の末の暗転…金正恩体制に反発