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北朝鮮の歴代指導者は、実にハコモノ好きだ。金日成主席は、1988年のソウルオリンピックに対抗して開催した第13回世界青年学生祝典の参加者を受け入れるためのホテルなどの施設を、巨額の予算を投じ経て続けた。それが、彼の死後に大飢饉「苦難の行軍」を引き起こす遠因となった。

金正恩党委員長もダム、タワーマンション、リゾートなど、今の北朝鮮の経済状況に到底そぐわないようなメガプロジェクトを次々にぶち上げている。多くの人員を動員し、多額の予算をかけて巨大な建物を建てて力を誇示することが、政権の安定化につながるという理屈のようだ。

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だが、その予算の多くは国が出しているわけではない。トンジュ(金主、新興富裕層)などの国内の富裕層が、完成後のマンションの部屋、政治的庇護などを見返りに、多額の投資をして、建設が行われている。国は、カネをかけずにハコモノを完成させて、成果は自分たちのものとするのだ。

ところが、平壌のデイリーNK内部情報筋によると、これらハコモノ建設を担当するクォン・ソンホ国家建設監督相に対して今月11日、厳重警告の処分が下された。投資したトンジュや、建設に関わった各道、市、郡の人民委員会(県庁、市役所に相当)の建設部門の幹部が成果と利益を手にしているが、その手法が手抜き工事の横行につながっていると、槍玉に挙げられたのだという。

また、国家建設監督省も、人民委員会の監督をきちんとしていなかったため、処罰の対象となった。

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しかし、そのような国家のやり方に情報筋は反発する。

「現在、すべてのものが不足しているのがこの国の状況なのに、トンジュを参加させなければ道、市、郡の工事は手抜きにならざるを得ない」

そもそも、施設の建設を行うに当たって、国は人民委員会に資金や資材の調達まで含めて丸投げして、一切の支援を行わない。それでも建設しなければ処罰される。そこで考え出されたのが、トンジュの投資を募る方法だ。投資がなければ鉄骨もセメントも労働者の食事も何一つ調達できない。

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上部も、そんな実情を考慮したのか、クォン氏に対しては厳重警告という軽い処分で済ませている。また、羅先(ラソン)、南浦(ナムポ)、開城(ケソン)の各市の人民委員会の幹部らは、問題が深刻だったのか、黄海北道(ファンヘブクト)の黄海製鉄所に追放される革命化処分が下された。ただし、処分は本人だけで家族は追放されず、家族らは安堵感からか泣き崩れたという。

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多発する手抜き工事には、より大きな原因がある。「速度戦」だ。

北朝鮮では従来から、金日成・正日親子の誕生日や政治的に重要な日に成果として発表するために、無理やり工期を短縮する突貫工事「速度戦」が繰り返されている。

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それが、ダムを建設したが崩壊の危機に瀕したり、できたばかりの23階建てのマンションが崩壊したりといった様々な問題を生み出している。高速道路の工事現場では、橋が崩落し500人が死亡する事故が起きている。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、この崩落事故で川原には原形をとどめない死体が散乱し、現場は救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

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ところが、「中身はともかく、とりあえず速くできればいい」という考え方が蔓延している上に、実績作りばかり考えている幹部の「過剰忠誠」も相まって、今後も速度戦はなくなりそうにない。

金正恩氏は、昨年4月に東海岸で造成中のリゾート「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設現場の視察したときに、速度戦を取りやめるよう指示を出したことがある。一方で現在建設中の平壌総合病院には、期日を決めたりスピード感のある工事を称賛したりして、速度戦を煽っている。

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