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かつて、北朝鮮は犯罪の極めて少ない社会と言われていた。日々の食事から住宅に至るまで、国から無償または安価で配給され、豊かとはいかないまでも、ほとんどの人が安定した暮らしができていた。

そんな状況が一変したのが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころだ。配給システムが崩壊し、食べるものが得られなくなった人は次々と餓死していった。犯罪に手を染める人も続出し、治安は極度に悪化した。金正日総書記は、「裁判なしで処刑」などの強硬策で犯罪に対処しようとした。

(参考記事:強盗を裁判抜きで銃殺する金正日流の治安対策

国内の状況が落ち着くにつれ、犯罪は減少したと言われているが、経済状況が悪化するたびに犯罪が増える。北部の両江道(リャンガンド)では、コチェビ(ホームレス)女性が犠牲となる殺人事件が起きた。

現地のデイリーNK内部情報筋が、事件のあらましを語った。

普天(ポチョン)郡の雲南里(ウンナムリ)の機械化作業班の近所に暮らしていた27歳の男性は、食べるものにも事欠き、外出すらままならないほど貧しい暮らしをしていた。

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(参考記事:30代男性にガソリンをかぶらせた北朝鮮の「貧困と絶望」

彼は先月初め、通りをさまよっていた女性を家に連れ込んだ。19歳のコチェビの女性だった。彼女がどういう経緯で家も家族も失ったのかは不明だが、2人の様子を見た村の人々は、コチェビと恋仲になったのだろうと思っていた。

ところが数日後。家から人のいる気配が感じられなくなり、女性の姿も消えてしまった。怪しく思った村の誰かが保安署(警察署)に通報したようだ。

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保安署は男性を連行し、女性の行方を問いただしたが、まともに答えようとしなかった。3日間に渡って怒鳴りつけられるという、精神的な拷問を加えられて、ようやく男性は女性殺害の自供を始めた。

(参考記事:北朝鮮の公開処刑、拷問など非難…米国務省が人権報告書

最初は付き合おうと家に連れ込んだが、カネも食べ物もなく、二人して飢えに苦しんだ。けんかとなり、かっとして女性を殺害、遺体を埋めたというものだ。自供の通り、地中から遺体が発見された。

保安署は、自分自身の食べるものすら確保できない男性が女性を家に連れ込んだのは、かわいそうに思ったり同情を感じたりしてのことではなく、性暴力を加えるためのものと見ている。

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男性に対する判決は下されていないが、殺人の場合、死刑または無期懲役が一般的な量刑だ。しかし、食べるものがなくまともな精神状態ではなかったことが酌量され、無期懲役の判決が下されるのではないか、というのが村の人々の見方だ。

最近、生活苦による殺人事件が多発し、不安が広がっているが、保安署や保衛部(秘密警察)は、かん口令を敷き、この事件について無駄口をたたくなとの命令を出している。

普天郡に隣接する恵山(ヘサン)市や三池淵(サムジヨン)では最近、強盗殺人事件が相次いでいる。三池淵の工事現場に動員された突撃隊員(半強制のボランティア建設労働者)に対する食糧配給がなされず、食べるもの欲しさに人を襲っているものと思われる。

(参考記事:北朝鮮「革命の聖地」近辺で強盗殺人が相次ぐ