北朝鮮の肥料製造能力は年間224万9000トン(韓国統計庁のデータ)。一方、北朝鮮で1年間に消費される肥料の量は155万トン(農業専門家の推計)だ。計算上は70万トン近くが余る計算になるが、現実は全く異なる。
北朝鮮で1年間に生産できる肥料の量は50万トンに過ぎない。つまり、需要の3分の1しか生産できていないのだ。そのため、肥料工場の周辺では各地の協同農場から担当者が数カ月間、肥料の受け取りを待ち続けるという光景が見られた。
(参考記事:ダーティマネーが飛び交う北朝鮮の熾烈な「肥料争奪戦」)
ところが最近では、その50万トンすら確保できない状況となっている。北朝鮮最大の肥料工場である、咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)市にある興南(フンナム)肥料工場が生産の中断に追い込まれたのだ。
現地のデイリーNK情報筋によると、同工場は数年前から電気や原料の調達に困難をきたし、生産量が減少傾向にあったが、今年の春からはついに生産ができなくなってしまった。その原因は設備の老朽化、電気の不安定な供給、そして何よりも大きいのは原料の不足だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面化学肥料の原料のうち、石油は国連安全保障理事会の制裁決議で北朝鮮への輸出が禁じられているため、そもそも原料が調達できないのだ。
せっかく生産した肥料も、次から次へと横流しされる状況となっていた。
(参考記事:北朝鮮の深刻な食糧難、その「隠された原因」とは)春からの生産中断は、今年の農業にもすでに悪影響を及ぼしている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「協同農場の穀物の収穫量が全般的に昨年のレベルに満たない。肥料の供給がなされなかったことが原因との評価だ」(別の情報筋)
北朝鮮当局も座して死を待つというわけではなく、それなりの対策は講じている。情報筋によると、朝鮮労働党は肥料生産量を増やすために、大型アンモニア合成塔を設置し、4000馬力の圧縮機も導入するなど、生産設備の増強を図っている。しかし、そもそも原料の輸入ができない状況で、設備投資を行っても肥料生産が増えるわけがない。
北朝鮮で、農業分野の公務員として働いた経験を持つ脱北者は次のように語った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「肥料生産を正常化するには、まず石炭、電気が円滑に供給されなければならない。また、設備の改造も必要だが、制裁のある現状で供給を保障できる条件を満たせない。興南肥料工場の生産中断が続けば、来年の農業生産にも直接の影響を及ぼすだろう」
労働者の7割は、同じ東海岸の「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」や、それと関連する咸興元山高速道路、あるいは端川(タンチョン)発電所の建設工事に動員されている。また、協同農場での収穫に動員された人もいる。
(参考記事:「15万人の血と涙」で建設が進む金正恩氏の「ブラック・リゾート」)他の国営企業への食糧配給が途絶えた状況でも、興南肥料工場で働く1万人の労働者への配給は続けられて、比較的安定した人気の職場だったが、生産中断と、建設現場への動員で労働者の不満は高まっているとのことだ。
結局、年明け早々から全人民を動員して集めた人糞を利用した肥料を使うよりほかに方法がないようだ。
(参考記事:北朝鮮「人糞が足りなければ刑務所行き」)