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北朝鮮は国際機関に対し、「今年はコメや小麦、ジャガイモ、大豆など140万人分の食糧不足が予想される」として、食糧支援を要請したことは、デイリーNKジャパンでも既報の通りだ。

(参考記事:北朝鮮、国連に支援要請「異常気象と制裁で食糧難」

食糧不足の原因としては度重なる自然災害が挙げられているが、それ以外にも北朝鮮農業、ひいては社会全体の構造的問題が背景にあると言えよう。中でも深刻なものは、蔓延する横流しだ。

北朝鮮最大の肥料工場、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の興南(フンナム)肥料工場では今年1月、肥料の横流し事件が摘発されたと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。その顛末は次のようなものだ。

黄海道(ファンヘド)の軍関係者が肥料を受け取りに工場にやってきた。軍部隊では、国からの配給だけでは兵士に与える食糧が確保できないため、自主的に農場を運営しており、そこで使う肥料をもらいにきたのだ。

軍関係者は、肥料工場の倉庫を管理する倉庫長に横流しの話を持ちかけた。

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「倉庫長と軍部隊の引き取り担当者は硝酸アンモニウムの肥料10トンを横流しし、儲けを折半しようと企んだ。貨物列車に40トンの肥料を積み込んだが、帳簿には30トンと記載した」(情報筋)

倉庫長は、警備担当の人民保衛隊(準軍事組織)の担当者にも見逃してもらえるよう話をつけた。貨物列車が出発さえすればすべてがうまく運ぶはずだったが、担当者が少し席を外した間に、計量担当者が貨物の重さを量ってしまったのだ。帳簿と実際の重さに大きなズレがあることに気づいたこの担当者の通報で、事が明るみに出てしまった。

軍の担当者はクビになり、倉庫長は過去の横流し事案も発覚。工場内の保安署(警察署)に勾留され、取り調べを受けている。保安員(警察官)の話では「教化刑(懲役刑)5年となるだろう」とのことだ。

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このような横流しが起きる原因は、超がつくほどの薄給にある。労働者の一般的な月給は4000北朝鮮ウォン(約52円)。平均的な4人家族の1ヶ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約6500円)。この差を埋めるには、違法行為に手を出すしかないのだ。

肥料の場合は、生産が需要に追いついていないという理由もある。

情報筋によると、毎年秋になると、全国の協同農場の担当者が工場の周辺で寝泊まりしながら、肥料の受け取りを待っている。受け取る順序、優先順位が決められておらず、先着順となっているため、このような現象が起きている。

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ところが今年は昨年より生産量が減っている。より正確に言うと、横流しで出荷量が減ってしまっているのだ。農場担当者らは、肥料がいつになれば手に入るかわからずやきもきしている様子だとのことだ。

(参考記事:ダーティマネーが飛び交う北朝鮮の熾烈な「肥料争奪戦」

そんな肥料工場は、咸興市内で人気の職場だ。市内で唯一、国からの食料配給が得られるからだ。月2回、合計で15日から20日分の食べ物が配給される。

地域住民の話では、3年前までは、1ヶ月に20日から25日分の配給を受け取っていたとのことだ。また、配給の内容も貧弱になり、今では濡れたトウモロコシが配給されているという。「乾かせば2キロ少なくなる」との不満の声が上がるのも当然だろう。

その理由について情報筋は言及していない。単に管理状態が悪いだけかもしれないが、何者かがトウモロコシをわざと濡らして重量を増やし、浮いた分を横領している可能性もある。

それでも、実際に働いている労働者のみならず、家族の分まで配給がもらえることもあり、人気の高い職場だ。「肥料を横流しして儲けられる」というのも、人気の理由のひとつだろう。