北朝鮮は今年、猛暑や大雨など度重なる自然災害に襲われた。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は先月2日の1面に「全国が立ち上がり高温と日照りの被害を防ぐための闘争を力強く繰り広げよう」と題した社説を掲載し、全国民に向け災害によるダメージ抑制のための闘争に立ち上がろうと異例の呼びかけを行った。
(参考記事:北朝鮮でも猛暑、党機関紙が対策を呼びかけ「被害防ぐ闘争を」)猛暑の後には台風がやってきた。先月24日に朝鮮半島に上陸した台風19号(ソーリック)と、その後も降り続いた大雨で黄海道(ファンヘド)を中心に76人が死亡、75人が行方不明となり、罹災者が5万8000人に達したと、国際赤十字連盟が発表した。
このような状況を受けて、今年の北朝鮮の農作物の作況については悲観的な見方が示されていたが、それを裏付ける現地情報をデイリーNKがキャッチした。
首都・平壌の北西50キロのところにある平安南道(ピョンアンナムド)の文徳(ムンドク)に位置する立石(リプソク)協同農場。北朝鮮の大穀倉地帯「十二三千里平野」のど真ん中にあり、5000人もの農民が所属する大規模な農場だが、調査の結果、収穫量が減少する見通しが示された。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面現地のデイリーNK内部情報筋によると、地域の農場には毎年8月末から9月初めの間に、郡の党農業部、組織部の協同農場担当指導員、人民委員会(郡庁)の農業関連部署の課長ら少なくとも3人がやってきて、穀物の予想収穫量を判定し、それを中央に報告する。
この農場には、例年より少し遅れた先月中旬に党との農村経営委員会の幹部がやってきて、予想収穫量の判定を行った。その結果、昨年の実績を下回る3600トンとの判定が出たという。
政府がこの農場に求めた穀物の計画収穫量は、コメとトウモロコシが7割、その他の穀物が3割の割合で6000トンだ。これは全国的に見てかなり高い数値で、この農場の生産性の高さを示している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、現場ではその6〜7割を現実的な目標としているという。計画収穫量は農場幹部の虚偽報告によって水増しされた数字を元に設定されているからだ。
(参考記事:北朝鮮、計画経済と「虚偽報告」が引き起こす食糧難)去年の穀物収穫量は3800トンだった。計画の63.3%なので、目標どおりとなった。しかし、幹部らによる今年の収穫見込みの判定では3600トンとなった。計画のちょうど60%なので、大凶作とまではいかなくても、昨年を下回る見込みだ。
このような判定結果を受け、地方幹部は当惑を隠しきれずにいる。主な原因として幹部らは自然災害を挙げたが、実はそれだけではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面文徳の協同農場では農繁期を前にした今年5月、予算不足などの理由で肥料、農薬の確保が思うように進んでいないと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えているが、この影響もあると思われる。
(参考記事:北の農場、ないないづくしで田植え)収穫量が減ったとしても、国は元々の計画収穫量の3割を強制的に買い上げる。価格は1キロ240北朝鮮ウォン(約3円)と、市場価格の20分の1以下というタダ同然の値段だ。収穫量の残りから諸経費分、翌年の種を除いた部分は農民に分け与えられるが、その量が減ることになる。
「40度近い猛暑の中で、日照り被害防止闘争を行い、台風の被害を防ぐために最善を尽くしたというのに、収穫量は減ってしまった。国に差し出し、来年用の種を残せば、実質的に受け取る収穫量は去年より大幅に減る」(情報筋)
北朝鮮の代表的な穀倉地帯であるこの地域と、黄海南道(ファンヘナムド)は猛暑と台風による甚大な被害を受けたが、実際に農場の状況を見て収穫量が減るとの予想が出たのは今回が初めてだ。
このような収穫減少が全国的に広がるかは今の段階ではわからないが、穀倉地帯であるこの地域で同様の減少が広範囲に渡って起きたとするならば、北朝鮮の食料供給に赤信号が灯ったも同然だ。コメ価格の上昇と食糧難は社会不安を引き起こしかねない。