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北朝鮮と中国の国境を流れる鴨緑江と豆満江。両岸には鉄条網が張られ、川原には近づけないようになっている。密輸と脱北を防ぐためだ。ところが、最近になって北朝鮮の一部地域で鉄条網の撤去作業が始まったと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

この情報筋は、両江道の恵山(ヘサン)を流れる豆満江沿いに設置されていた鉄条網の撤去作業が数か所で行われていると伝えた。撤去の理由について、町ではこんな噂が囁かれている。金正恩党委員長が両江道を現地指導したときのことだ。

「外国人が沿線地帯(国境地帯)を通り過ぎるときに、『北朝鮮の人々は鉄条網に囲まれて暮らしている』などと言って人権問題を提起するかもしれないので、すぐに撤去せよ」(情報筋)

この噂の信憑性は不明だが、金正恩氏は2ヶ月連続で両江道を訪れ、現地指導を行ったのは事実だ。

(参考記事:「敵対勢力との先鋭な対決戦」金正恩氏、三池淵郡を現地指導

恵山は、鴨緑江を挟んで中国吉林省長白朝鮮族自治県と向かい合っている。川幅は50メートルもない。そのため当局は、川沿いに鉄条網を張ったり、落とし穴を掘ったりと脱北や密輸防止にやっきになっていた。

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一方で長白県は、年間数十万の観光客が訪れる長白山(白頭山)に近く、北朝鮮の都市(恵山)が手に取れるように見えるところだ。SNSには、観光客が中国側から撮った恵山の写真が大量にアップロードされている。そんな外から丸見えのところで「統制強化」の証拠写真が撮られるのは、具合が悪いと考えたのだろう。

恵山の人々にとって、鴨緑江は水汲みや洗濯など、生活と密接した存在だ。それなのに、2015年8月ごろから川原への接近が禁じられたため、生活に大きな支障が出た。

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それだけあって、今回の鉄条網の撤去に市民から歓迎の声が上がると思いきや、反応は意外と冷淡だという。それもそのはず、国境の警備、監視が強化されたからだ。

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「鉄条網が撤去されてからというもの、国境警備隊員は川沿いを歩いている人を疑いの目で見るようになった。『鉄条網頼み』でだらけていた警戒心が再び強まったようだ。市民は空気を読んで国境沿いに行くのを避けている」(情報筋)

さらには、お上の朝令暮改ぶりへの批判の声も上がっている。

「最高指導者の鶴の一声で、あったものはあっという間になくなり、なかったものもあっという間にできる」(恵山市民)

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もはや取ってつけたような政策で、金正恩氏の人気上昇は望めないようだ。

8月中旬の北朝鮮の恵山市。国境警備哨所の前には脱北防止用の白い壁(黄色い丸)が作られている。(画像:デイリーNK取材班)
2015年8月中旬の恵山。国境警備哨所の前には脱北防止用の白い壁(黄色い丸)が作られている。(画像:デイリーNK取材班)