北朝鮮と韓国・米国・中国との首脳会談を契機に緩和局面に入った朝鮮半島情勢だが、北朝鮮に課せられた国際社会の経済制裁は未だに解除されていない。北朝鮮は深刻な外貨不足に陥っていると伝えられているが、その打開策のひとつが農産物の増産だ。
北朝鮮当局は、世界最長の10年の兵役を終えた兵士(除隊軍人)を、タバコ農場に送り込み、生産量を増やすことを目論んでいるが、計画が始まる前からギクシャクしている。
デイリーNKの内部情報筋によると、当局は7月中旬、咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)郡の倉坪(チャンピョン)労働者区にある4.25タバコ農場に対して、「除隊した兵士を大量に送り込むので、宿舎となる住宅を建設せよ」との指示を下した。
それも1棟、2棟ではない。2階建ての住宅を56棟も建てるという大規模なものだ。
「除隊兵士用に建設されるのは原題式文化住宅で、元帥様(金正恩党委員長)が現地指導に来たときに目立つように、道路の周囲に建てられる」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「現代式文化住宅」に明確な定義がないようだが、伝統家屋を現代の生活に合わせて改良したもので、1970年代以降に農村で建設される住宅の模範となっているものだ。
北朝鮮のタバコは、「安い割には味が良い」と中国で定評がある。北朝鮮企業が出展する見本市などでは、北朝鮮製のタバコが大量に売られている。それで、生産と輸出を増大させ、外貨を稼ごうと目論んでいるのだろうが、計画は最初の段階から躓いている。
「政府は建設に必要な資材を自主的に解決せよと指示を下した。セメント1キロすら送ってこず、ともかく建てろと強いている」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面建設の指示だけ出して資金・資材・人員は自力で調達せよというのは、北朝鮮当局のいつものやり方だ。結局、農民から徴収したカネで資材を買うしかないのだが、56棟分の資材の購入に必要となる予算を、貧しい農民から集めるのは現実的な方法とは言えない。世帯ごとにセメントの調達ノルマと勤労動員が課せられ、基礎工事をやらされているとのことだ。
そもそも、除隊した兵士が農場に定着するかどうかもわからない。
兵役を終えた兵士を、炭鉱や山奥の協同農場など誰も行きたがらないところに集団で送り込むことを「集団配置制度」と言うが、社会に戻って商売に励もうとしていた元兵士たちの間では極めて不人気な制度だ。(参考記事:北朝鮮、海外派遣のはずが山奥の農場へ…騙された軍人たち、怒り心頭)
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実際、農場に配置された元兵士が、生活苦から農場から逃げて失踪したり、食糧を確保するために周囲の農村を襲ったりする事態が後を絶たない。