北朝鮮当局が、ありもしない「海外出稼ぎ」を誘い文句にして、軍人たちを騙して働かせていると両江道(リャンガンド)のデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。騙された軍人たちは、怒り心頭だという。

10月18日総合農場の衛星写真 ©Wikimapia
10月18日総合農場の衛星写真 ©Wikimapia

騙された元軍人たち

事の発端は昨年末。北朝鮮当局者が、軍人たちに「オイシい話」をもちかけた。

「海外の大豆畑で働く人を探しているんだが、行ってみないか。応じたら早期除隊を認める」

この話しに一部の軍人が応じて除隊。喜び勇んで海外行きの準備をしていた。ところがある日。当局が急にこんなことを言い出した。

「やっぱり、大豆よりジャガイモが大事だ」

結局、軍人たちは、両江道白岩(ペガム)郡の「10月18日総合農場」、通称「万町歩農場」に送り込こまれてしまった。

この農場は、「ポルノ動画事件」で処罰されたとされる銀河水管弦楽団団員の流刑先といわれている。中朝国境の都市、恵山(ヘサン)からはそれほど遠くはないが、駅までは10数キロもある。おまけに周囲には核実験場(推定)や第16号管理所(化成強制収容所)まである曰く付きの地域だ。

当局の担当者も「やっちゃった感」があったようだ。元軍人たちの怒りを恐れたのか、あらかじめ家を建ててすぐに住めるようにした。さらにジャガイモの1年分の収穫、布団、キッチン用品などの家財道具一式も揃えるなど格別配慮をした。

しかし、除隊までした当の元軍人たちの怒りは収まらない。当局は、「党の求めに応じるのが軍人の勤め」「ここが党の指示を貫徹するための戦場だ」などと言いくるめたが、軍人たちは「バカにするな!」と逆に怒りに火をつけるハメになった。

北朝鮮の一般庶民にとって海外に行くことは宇宙旅行並みに難しい。軍人たちは、「大豆畑の仕事はかなりキツいがそれでも海外に行けるんだったら」と期待に胸を膨らませていた。

兵役生活で長年帰っていない故郷にも戻らずに海外行きの準備をしていた軍人もいれば、当局の「騙し文句」によって家庭不和、さらには自殺まで引き起こしている。

夢の平壌から山奥へ 悲観して自殺する人も

「俺、海外に行くんだ。だから、その前に結婚してくれないか?」

そんな言葉を落とし文句にプロポーズ、結婚にこぎつけた軍人たちもいる。ところが海外に行くはずが配置されたのは国内、それも山奥の農場と来たもんだから、あちこちで離婚騒ぎになっているという。

北朝鮮では、都市と農村は、別世界と言っていいほど格差がある。平壌や他の大都市に暮らしていた人が、自ら望んで農村に行くということは、あり得ない。

結婚した夫婦のなかには、夫について農村に来たものの、「もうこんな生活いやっ!」などと言い出し夫婦喧嘩も絶えないという。

平壌で教師をやっていたある女性は夫と見合い結婚をした。当初は、夫が海外に行くと喜んでいたが、その話が無くなり、自分が農場で暮らすことになった。

しかし、農村生活に馴染めず、夫に離婚を申し出したが拒否。人生に絶望してイソニアジド(結核薬)を数十粒飲んで自殺してしまったという。

検死の結果、事件性はないと判断され、夫が罪に問われることはなかった。しかし、残された夫は「行き先がこんな山奥だと知ってたら除隊もしなかった。こんなところに来なければ妻が自殺することもなかったろうに」と嘆き悲しみ、酒浸りの日々を送っているという。

この10月18日農場は1992年に建設されたものだ。広大な敷地を誇るが、すべてを耕作する人手が足りず、除隊軍人を何度も送り込んでいる。

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