北朝鮮の故金正日総書記は、ジャガイモに並々ならぬ愛情を注いだ人物として知られる。

北朝鮮が大飢饉「苦難の行軍」のまっただ中にあった1998年、北部の両江道(リャンガンド)大紅湍(テホンダン)郡を中心とした地域に、ジャガイモ農場を開発することを指示し、1000人以上の除隊軍人(兵役を終えた兵士)を送り込んだ。

このプロジェクトは大成功し、大紅湍はジャガイモの名産地として名を馳せるようになった。それなのに、深刻な人手不足に悩まされている。当局が送り込んだ除隊軍人が次から次へと逃げてしまうからだ。ただ、原因はそれだけではなかった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道の情報筋によると、当局は毎年、除隊軍人を大紅湍のジャガイモ農場に送り込んでいる。2014年には200人、2015年には450人、2016年には300人だ。

ところが、姿をくらます人が相次いでいるのだ。それも1人、2人ではなく、数百人単位だ。情報筋は語る。

「昨年、大紅湍には200人以上の除隊軍人が送り込まれた。彼らは収穫後に配分されたジャガイモでデンプンを作り、高値で売り払い、全員が姿を消してしまった。逃走は事前に計画されたものだとの見方が強まっている」

行き先は明らかになっていないが、故郷や妻の実家に戻ったか、カネ儲けの機会が多い都会に出たものと見られている。また、中国との国境に面しているため、脱北した人もいると思われる。

別の情報筋によると、金正日氏の指示で送り込まれてきた除隊軍人には、住宅、カラーテレビ、毛布などが与えられるなど、様々な配慮がされたが、最近送り込まれた人々には、何の配給もない。

この件は中央に報告され、人民軍警務局(憲兵隊)に対し、全員逮捕せよとの指示が下された。当局は脱北した可能性もあると見て神経を尖らせている。

よほど、人手不足が深刻なのだろう。当局が除隊軍人を「海外のしごとを紹介してやる」と騙して、ジャガイモ農場に連れてきた事例も報告されている。

それにしてもなぜ人手が足りないのだろうか。情報筋によると、1990年代末の大飢饉「苦難の行軍」の頃には出産率が低く、死亡率が高かったため、10代後半から20代の若者が少ないからと説明している。

しかし、このような人手不足の根本には、金日成氏が行なった出産抑制策も関係している。

北朝鮮では、朝鮮戦争の終わった1955年から1970年にかけて、人口1千人あたりの出生数が30人を上回っていた。これは、日本の第一次ベビーブーム時の出生率に匹敵する数値だ。

ところが70年代初頭、金日成氏は「人口増加率は下げたほうがいい」と述べた。これに基づき、当局は積極的な出産抑制策を打ち出した。1973年には妊娠中絶を合法化し、結婚可能年齢も引き上げられた。また、学校では避妊についての教育が行われるようになり、避妊具の普及も進められた。

北朝鮮の既婚女性の避妊実行率は都市部で68%、郡部でも53%まで上昇した。その結果、1975年から80年までの5年間の出生率は19人にまで下落した。

このような人口抑制策は、経済が発展するという前提で進められたものだが、80年代以降に経済の衰退が始まり、「苦難の行軍」も加わって、出生率の下落が止まらなくなってしまった。2000年には20.43人だった人口1千人あたりの出生数が、2008年には14.61人まで下落し、それ以降は横ばいとなっている。

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