前近代の日本には、所払い、江戸払い、江戸十里四方御構などと言って、住んでいるところから追放されるという刑罰があった。犯した罪の重さに応じて追放される距離が決められるものだった。朝鮮半島にも「流配」と呼ばれる追放刑が1895年まで存在した。

このような追放刑を未だに行っている数少ない国が北朝鮮だ。そもそも平壌に住めるのは一定の条件をクリアした人々に限られるが、当局は事あるごとに市民の身辺調査を行い、追放を実施している。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、当局は今月から金正恩党委員長の下した方針に基いて調査を行い、追放対象者をあぶり出している。その対象となったのは次のような人々だ。

◯普段から体制に不平不満を述べている人

◯中国に行ったきりの家族と連絡を取り合っている人

◯行方不明者だと申告していた家族が実は韓国に行っていたことがわかった人

これは、体制に不満を持つ人に「裏切り者」の烙印を押し、豊かな平壌から追い出すという罰を与えるというものだ。追放の担当者は「平壌市民として暮らしていたことがいかによかったか、追放先に行けば骨身にしみてわかるだろう」「祖国と家族を裏切った結果がどれだけ苦いものか思い知るべきだ」などと言っているという。

実際、そこそこの生活レベルが保証されている平壌とは異なり、インフラが整っていない地方での生活は非常につらいものになる。山奥では電気も水道もない暮らしを強いられる場合すらある。また、市場が遠いため、現金収入を得るのも難しくなる。

(参考記事:北朝鮮山間部の悲惨な「水事情」…汚染水で皮膚病も

どうやら北朝鮮当局は、脱北者家族を通じて、国外の情報が国内に広がることを恐れているようだ。

北朝鮮当局は昨年、相次いでこのような平壌からの追放を行った。

春には、留学生と海外に派遣された労働者のうち、行方不明になった人の家族を追放した。また、東京新聞は昨年8月、国家保衛省が平壌市内の人民班の班長(町内会長)を対象に行った政治講演会で、当局に知らせることなく平壌を1週間以上留守にした人と、許可なく酒類を販売した人を平壌から追放する方針を伝えたと報じた。さらに韓国の国家情報院は同月、北朝鮮当局が前科のある人、仕事のない人を平壌から追放したと韓国の国会に報告した。

こうした動きを受け、市民の間では恐怖が広がっている。人々は、第13買い世界青年学生祝典の前に当局が平壌の大規模な「人減らし」をしていたことを思い出し、自分だけは対象とならないよう祈っているという。

大々的な追放のもう一つの理由として市民の間でささやかれているのは、当局が平壌市の人口を無理やり減らそうとしているというものだ。デイリーNK内部情報筋によれば、保安員(警察官)は「今回の措置で人口が3万人から5万人減るだろう」と言っているとのことだ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、平壌の情報筋の話として、当局が2010年まで300万人いた人口を追放や市域の縮小で260万人まで減らしたが、今後さらに追放を進めて200万人まで減らす方針だと報じた。

朝鮮半島情勢の緊張に加え、平壌でのみどうにか一部維持されていた食糧配給が、いよいよ困難となったことが背景にあると言われている。また、挑戦労働党や国の機関の内部で、一般市民の知り得ない何か深刻な問題が起きているのではないかと疑いの目で見る人もいる。

過去には障がい者も追放の対象となったことがある。金正日総書記は1980年代初頭に「障がい者が革命の首都平壌にいると、外国人に不快な印象を与えるから、追放せよ」との指示を下した。それにより、多くの障がい者とその家族が平壌を追われた。

(参考記事:障がい者の「強制隔離」を実行した北朝鮮…抹殺も検討