北朝鮮が5日、東海岸の新浦(シンポ)付近から弾道ミサイルを発射したことについて、北朝鮮メディアは6日までにまったく報道していない。

北朝鮮は近年、主要兵器の実験は金正恩党委員長が直接指導し、成功した場合は翌日に写真や動画とともにその事実を報道。新聞などには正恩氏が満面の笑みを浮かべる写真がデカデカと掲載し、技術力の向上を誇ってきた。

こうしたメディア戦略は、正恩氏が直々に指導しているものと思われる。なぜなら一連の写真には、こちらが「これ、いいの!?」と思ってしまうような、正恩氏のコミカルな写真も混じっているからだ。

いずれにしても、5日の弾道ミサイル発射の報道がないことは、米韓が分析しているとおり失敗に終わった可能性が高い。

一方、報道によると、米国防総省当局者は今回発射されたミサイルについて、米太平洋軍が当初推定した新型中距離ミサイル「北極星2」(KN-15)ではなく、スカッドERだったと分析を修正した。

また、米太平洋軍はミサイルが約9分飛行したとみていたが、国防総省当局者は発射から間もなく制御不能に陥り、飛行したのは「1分程度だった」と説明。使用された燃料についても、当初推定した固体燃料ではなく液体燃料だったと修正している。

こうした間違いが示唆するものに、一抹の不安を感じるのは筆者だけだろうか。

トランプ米大統領は6日、北朝鮮によるミサイル発射を受けて安倍晋三首相と電話で会談し、「最大限の軍事力で米国と同盟国を守る」と表明したという。軍事力で同盟国を守るための前提は、いかに北朝鮮の動きを正確に把握できるかだろう。しかし果たして、米軍はどこまで完璧な防衛体制を築けるのだろうか。筆者は軍事技術には詳しくはないが、どんなミサイルが何分間飛行したかを即座に把握できないレベルの分析力では、いかにも心もとない。

忘れてはならないのは、北朝鮮は核兵器を持っているということだ。仮に米軍のミサイル防衛が99パーセントの撃墜率を達成したとしても、100発飛んで来たら1発はすり抜けてくる可能性が残るということだ。

たとえ韓国や日本に核弾頭が1発着弾したとしても、それで北朝鮮が軍事的に勝利するわけではない。しかし、我々の側が被るダメージが大きすぎる。高度に発展した資本主義社会は、一方で脆弱性も抱えており、核攻撃による被害を甘受できるほどのリスク許容度は備えていないように思える。

筆者はだからこそ、国際社会は北朝鮮の核兵器開発への対処をもっと急ぐべきだと考える。こうしている間にも、正恩氏はプルトニウムや高濃縮ウランの増産を急がせている可能性があるからだ。北朝鮮が200発も300発も核兵器を配備する、悪夢が現実のものになるかもしれないのだ。

そして北朝鮮の核兵器開発を止める方法は、金正恩体制を倒すほかにないだろう。すなわち北朝鮮の民主化である。

政治犯収容所に象徴される北朝鮮の人権侵害を止めることは、かの国の人々を救うためだけでなく、我々の安全保障にとっても死活的に重要な問題なのだ。


高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事