「金正恩は自分のことで精一杯」現場の嘆息

朝鮮労働党の農業担当者たちは上層部の顔色をうかがい、農地面積と生産計画を現実的な線の2倍で申告。さらに、ノルマ未達に対する叱責を恐れて「超過達成」の虚偽報告を繰り返している。その悪循環の中、農民が高利貸しに頼って食いつないでいる現実については前回の記事でレポートした。

北朝鮮で農業のベテランだった脱北者のA氏は、たまらず「こんな計画、無理です」と上役に直訴。すると「農地を増やせ」との答えが返ってきたという。

「農耕用の牛も足りない中、満足に食えないのに、人力でそんなことできるわけありません」とA氏はため息をつく。なんとかやりくりしてきたが、それも限界に達し、A氏は故郷を捨てた。

100キロを2トンで返済

では、農場員たちは高利貸しから借りた分の利息200%をどう返済しているのだろうか?

A氏の答えは単純なものだった。

「返済できず、雪ダルマ式に借り入れが増えています」

A氏の農場ではジャガイモを栽培していた。4人家族が3か月分の食糧として、トウモロコシ100キロを借りた場合、ジャガイモとしては最低2トンを返済しなければならない。ジャガイモを澱粉にすると、10分の1の200キロになるからだ。

だが、農場員に満足な分配が無いなか、2トンの余分があるはずもない。そもそも、それがあれば借り入れなどしない。

死ねないから生きている

結局、農場員はできる範囲で返済することになる。ジャガイモそのままではなく、澱粉として返済するのだが、その過程の努力も涙ぐましい。

澱粉をとる過程で出るカスを自分たちで食べるのだ。この絞りカスは「カリ」と呼ばれ、北朝鮮の農民が口にする最もみすぼらしい食べ物である。小麦粉を混ぜ、麺や餅にして食べるが、ほとんどが繊維質で、消化が悪い代わりに腹持ちはよいが、まったくおいしくない。

高利貸を営んでいるのは「金主(トンジュ)」と呼ばれる、権力と結託し数百万ドル以上の資産を築きあげた新興富裕層だ。返済額(農作物)が無限に増えていくのでウハウハだろう。

農民の境遇は、封建時代の地主制度と同等、もしくはそれ以上の悲惨さであり、北朝鮮風の表現で言うなら「死ねないから生きている」状態に過ぎない。

「それでも金正恩時代になって、個人の取り分が増える農業改革(圃田担当制)を導入するなど、農民経済も上向きになったと評価する人も外部にいますが」と話題を向けると、A氏は「とんでもない」とさえぎるのだった。

「金正恩は農民の生活なんて見えていませんよ。自分の権力を維持するのに精一杯なんでしょう。農業改革も看板だけ変えただけで、私の農場では金正日時代とまったく変わりません。むしろ、生産を増やせという金正恩の要求にこたえるために、ウソの報告がエスカレートして、にっちもさっちもいかなくなっています。状況は本当にもう、限界だと考えてよいでしょう」。

A氏は幹部としての職務上、ほかの地域の農場を見学することも多かった。「あなたの農場は良い方ですか、悪い方ですか」という質問に、しばし間をおいてこう答えた。

「残念ながら、良い方でしたね」

では「悪い方」に入る農場はどんなあり様なのか――それについては、今後の取材の課題としたい。(了)

【連載】利息200%の借金地獄で生きる北朝鮮の農民たち(上)

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