中国当局が進めている「携帯電話実名制」の波紋が中朝国境で拡がっている。中国キャリアの携帯電話が使用できなくなる可能性があるからだ。

日本と韓国を除くほとんどの国では、携帯電話を使用するにあたって、端末と、電話番号などが記録されたSIMカードを別途購入する方式が採用されている。中国もこの方式を採用しているが、SIMカードの購入には何ら制限はなかったため、「オレオレ詐欺」やテロなどの犯罪に利用されても、捜査が難しかった。

こうした犯罪を防止するため、中国当局は携帯電話購入時に身分証明書の提示が必要となる「携帯電話実名制」を2010年から段階的に推し進めてきた。2017年までの完全実施を目標にしているという。

また、この制度では同一人物がSIMカードを5枚以上購入する場合、民間の代理店ではなく、携帯電話会社直営の営業所での契約を義務付けている。中国の工業情報化省は、各携帯電話会社に対して、2017年6月までの実名率100%達成を求めており、それ以降は持ち主の身元が定かでない携帯電話は使えなくなるとしている。

中国の国境都市でも、各携帯電話会社は既存のユーザーに対して本人認証を求めていると現地の情報筋は明かす。これに応じない場合には通話、メールの順番で、段階的に機能を停止し、手続きを促しているとのことだ。

しかし、実名制の実施で、国境の向こうの北朝鮮で中国キャリアの携帯電話を使っている人々の間で不安が高まっている。認証手続きができず携帯電話が使えなくなれば、ビジネス(密輸)、国際送金、中国や韓国にいる家族や知人との連絡などができなくなるからだ。

別の情報筋は、実名制を免れる裏ワザについて語る。

「北朝鮮で使っている中国キャリアの携帯電話を中国にいる親戚や知人の元に送って、『本人認証』をしてもらう。その後、北朝鮮に送り返してもらう」

しかし、この方法では本人が密輸などで摘発されると、名義を貸した人も巻き込まれるリスクが高く、敬遠されがちだという。

中国当局の措置について、情報筋は「北朝鮮の保衛部(秘密警察)にとって、中国キャリアの携帯電話は目の上のたんこぶだったが、今回の措置で喜んでいるだろう。北朝鮮が中国に泣きついたのではないか」という見方を示した。

一方で、保衛部にとって実名制実施は、それほど好ましいことではないとの見方もある。

北朝鮮では、誰も守れないような規制を作り、違反者からワイロを巻き上げるという行為が状態化している。保衛部は、携帯電話のユーザーを逮捕して「収容所送りにするぞ」と脅迫し、多額のワイロをむしり取ってきた。また、使用を黙認する代わりに、多額の「使用料」を払わせる手法も取ってきた。中国の携帯電話が使えなくなると、このような飯の種が消えてしまうのだ。

また、国境沿いに配備された携帯電話専門の取り締まり要員も要らなくなる。利権と権限縮小につながる「実名制」を喜ぶわけがないというのだ。

しかし、「上に政策あれば、下に対策あり」のお国柄。そんなことにはならないかもしれない。まず、中国では、登録の必要がない「闇SIMカード」が大量に出回っており、これを使用すれば、当面は問題なく携帯電話が使用できる。

他にも方法がある。国境沿いの中国側にいる人に北朝鮮キャリアの携帯電話を持たせて、通話をするというものだ。これなら実名制の影響は受けず、保衛部の取り締まりにも引っかかりにくい。規制、統制でがんじがらめの社会で生き抜いてきた北朝鮮の人は、そんなにやわではない。

    関連記事