「ヘル(Hell)朝鮮」という言葉が韓国の若者の間で流行っている。韓国社会が地獄のように生きづらいことを自虐気味に現す言葉だ。一方、北朝鮮でも「朝鮮(北朝鮮)はつぶれた」と語る若者が増えているという。

韓流ドラマで拷問も

先月、韓国の「朝鮮日報」が入手した韓国情報当局による陳述書によると、中朝国境地域の青少年らは、「朝鮮はつぶれた」「中国に住みたい」という言葉を公然と口にするとのことだ。

元々、国境地帯は中国からの情報流入が最も多い地域だ。彼らは、幼少時から韓流ドラマをはじめ、日本、中国のドラマや様々なコンテンツに触れており、外部世界についてある程度知っている。当然、北朝鮮がいかに貧しいのかについても、おおよそ知っている。

だからこそ、北朝鮮当局は、プロパガンダを骨抜きにする韓流ドラマを警戒する。その警戒ぶりは、映像ファイルを保有していた女子大生に、無慈悲な拷問を加えるほどだ。それでも韓流ドラマの拡散は止まらない。

ドラマを見た北朝鮮の若い男性は、「中国や南朝鮮(韓国)の女の子たちは可愛いけど、我が国(北朝鮮)の女性たちはイマイチ」と、極めて女子に対して失礼な発言をする。このイマイチというのは垢抜けていないという意味だと思われる。その一方、北朝鮮女性の素朴さが韓国で人気を呼ぶという逆転現象が起きているのは、実に皮肉な話だ。

下手な発言は「地獄の収容所」行き

こうした自虐的思考は、高位幹部の家庭になればなるほど強まるという分析結果も出ている。とくに、海外生活を経験した子どもたちは、帰国を嫌がり、両親を困らせる。

子供たちが「我が国(北朝鮮)がどれほど貧乏なのか知っている。未来がない」と、両親に不満をぶつければ、親は「(北朝鮮の)外で生きたければ外交官などの職業に就けるように努力するしかない」と説得する。夢も希望もないやり取りだ。

海外生活の経験のある子弟らは北朝鮮に帰国しても、閉鎖的な環境に適応できず、仲間はずれにされたり、イジメを受けるケースも多い。さらに、彼らは自由社会を身をもって知っているだけに、下手な言動によって政治的な処罰を受け、最悪の場合「この世の地獄」と称される拘禁施設に収容される恐れもある。

あまりにも閉鎖的で、未来への展望を持てないことから生まれた「朝鮮はつぶれた」という自虐発言。もしかすると北朝鮮の若者たちが抱く絶望感を最も言い表しているのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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