北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は6日、金正恩党委員長が「弾道ロケット発射訓練」を現地指導したとして、9枚の写真を公開した。訓練が行われた日時は明らかにされていないが、5日に実施した弾道ミサイル発射のことであると見て間違いあるまい。

気になるのは、1面に掲載された写真だ。

ミサイル発射の視察時、日本列島の描かれた地図を前にした金正恩氏
ミサイル発射の視察時、日本列島の描かれた地図を前にした金正恩氏

正恩氏の前にあるテーブル上に地図が広げられているのだが、そこに、日本列島の一部が描かれている。そして、正恩氏の側近が指し示しているのは、どうやら日本近海のようなのだ。

自衛隊はどうする?

これは今回の発射が、日本の防空識別圏内の海上を狙って実施されたものであることを示すものだ。そしてミサイルは正確に、北海道沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

日本列島と朝鮮半島が隣り合っている以上、北朝鮮がミサイルの発射実験を続ける限り、こうしたことが繰り返されるだろう。だからといって、このこと自体を必要以上に不安がることはない。

だがそろそろこの辺で、近い将来を見据え、北朝鮮の核・ミサイル開発が生み出すリスクについて、国会などでしっかり議論をすべきではないのか。対北強硬派のように思われている安倍晋三首相だが、彼が首相になって以降、北朝鮮に対して取った実質的措置は何もない。

一般にはなかなかうかがい知れないことだが、外事警察や防衛省などの対北情報戦の能力が政策的に強化されたなどという話は、どこからも聞こえてこない。

世界が注視する北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)開発は、日本海に面した基地で行われている。北朝鮮は今後、より大型のミサイル潜水艦(それももしかしたら原潜)を建造し、日本海に配備する動きを見せている。海上自衛隊は、それとどのように向き合うのか。

公開処刑をやめられない

こういった問題について、日本では与党政治家が方針を示すこともなければ、野党が国会で内閣を質問攻めにすることもない。北朝鮮の核・ミサイル開発は、日本からほとんど何のけん制を受けることもなく、ゆうゆうと進んでいる。

もしかしたら政治家たちは、「米国が何とかするだろう」と考えているのかも知れない。たしかに、米国は北朝鮮の暴走をいつまでも放っては置けないだろう。だが、そこで米国の起こす行動が、日本の国益にかなうとは限らない。

7月、米国は正恩氏ら北朝鮮の指導部を制裁指定した。北朝鮮国内における人権侵害の責任を問うてのことだ。これは、北朝鮮が政治犯収容所を閉鎖し、国民に対する公開処刑などの虐待を止めなければ、米朝関係の改善が実現しないことを意味する。

しかし、恐怖政治に依存して体制を維持している正恩氏に、人権侵害を止められる訳がない。

つまり金正恩体制が続く限り、米朝関係の改善はない。ということは、日朝関係の改善もあり得ない。米国が人権問題で北朝鮮に制裁を続けているのを横目に、「我が国には関係ない」と言って、日本が独自に北朝鮮を経済支援することなど考えられない。

ということは、北朝鮮としてはこれ以上、日本と交渉しても何のうま味もないということになる。

つまり皮肉なことに、米国が北朝鮮に人権制裁を加えたことによって、日本人拉致問題を対話で解決できる可能性がほとんどゼロになってしまったのだ。

軍事問題においてもこれと同様に、米国や韓国の動きが思いもよらぬ形で日本に犠牲を強いる可能性があるということだ。

思考停止のままでいてはいずれ、北朝鮮の「核リスク」が日本を直撃しないとも限らないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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