北朝鮮が「賄賂なしでは動かない国家」というのは、国内の住民から脱北者までの共通認識だろう。社会の隅々までワイロ文化が染みついており、大小のビジネスから軽犯罪の見逃し、そして学校の成績さえもワイロの額で決まる。

覚せい剤ダイエットにハマる女性も

全ての物資が不足している北朝鮮では、現金だけでなく、現物でワイロがやり取りされるケースも多い。驚くべきことに、人気の現物ワイロの一つが覚せい剤だ。

慢性的な経済難が引き起こした社会不安を背景に、北朝鮮では覚せい剤が老若男女の間で蔓延している。朝鮮労働党の幹部や富裕層の間では、風邪予防程度のクスリととらえ、なかには「ダイエット目的」で覚せい剤を使用する女性が急増しているという驚くべき情報もあるぐらいだ。こうしたことから覚せい剤は、ワイロとして十分に価値があるようだ。

人気の精力剤

さらに、北朝鮮幹部やトンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層の男性の間で、最近人気を呼んでいるワイロが「熊胆」(クマの胆嚢)だ。

熊胆は、肝臓病や胆石に効果のある漢方薬として、古来から珍重されてきた。しかし、熊胆を採取するツキノワグマやヒグマの輸出はワシントン条約で規制されている。さらに、中国国内でも「残酷な方法で熊胆を採取している」と激しく非難する声があることから、貴重性が増しているようだ。

熊胆に人気が集まる理由は、漢方薬としてのみならず、男性用の精力剤にもなるという噂が広がっているからだ。

「夜の奉仕」を専門とする女性集団も

北朝鮮では未だに前近代的な女性蔑視が根強く、高級幹部やトンジュの男性が愛人を囲うことがはびこっている。

なによりも、金正恩党委員長の父である故金正日氏が、国家に身も心も捧げるために作り上げた「喜び組」のなかには、夜の奉仕を専門とする「木蘭組」という特別な女性集団も存在するという。こうした女性たちは「5課処女」と呼ばれ、厳しい選抜を経て、金一族を支える「特別な」集団へ仲間入りする。しかし、不合格となれば、党幹部たちの愛人として囲われるケースも多い。

こうした悪習を背景に、精力剤としての熊胆が人気を呼んでいるようだ。現物ワイロとしてやり取りされる「覚せい剤」や「精力剤」は、北朝鮮社会の乱れと悪弊を象徴しているともいえる。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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