22日に公示された参院選では、昨年成立した安全保障関連法(安保法)の存廃がひとつのテーマになっている。奇しくも同日、北朝鮮は中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射実験を行い、技術的な進展を国際社会に見せつけた。核弾頭が搭載されて多数が実戦配備されるようなことになれば、日本の安保は大きな脅威にさらされる。

日本から「先制攻撃」も

ここで、安保法が北朝鮮との戦争を抑止する上で有効かどうかを考えておくことは無意味ではないだろう。

残念なことに、国会における安保法案の審議の過程では、これがどのように北朝鮮情勢に作用し、どのような理屈で北朝鮮の脅威を抑え込むことになるのかといったような、具体的な議論はほとんど交わされなかった。

それなのに、ただ漠然と「集団的自衛権の行使を可能にして米軍との関係を深めれば、北朝鮮も迂闊に手出しできないだろう」と構えるのは、日本にとってむしろ危険かも知れない。

北朝鮮情勢と日本の防衛を考える上で、安保法と並んで重要なのが、昨年4月に日本政府と米国が合意した防衛協力指針(ガイドライン)だ。そこでは、米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊が迎撃することが集団的自衛権の行使として想定されている。

弾道ミサイルの迎撃については今のところ、地上から発射されるケースについてのみ考慮されているが、北朝鮮は米国に脅威を与える目的で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発中だ。将来、北朝鮮がSLBMを搭載した潜水艦を実戦配備したら、それを監視し、対抗する新たな任務が海上自衛隊に求められるということだ。

安保法では間に合わない

つまりそれは、海自の艦艇が北朝鮮の核戦力と至近距離で対峙するということであり、北朝鮮の動向に不穏さが増せば、「相手が動く前に、沈めてしまおう」という判断もあり得るのである。

問題はそのような情勢になったとき、北朝鮮が地上発射型の核ミサイルを多数配備していたらどうするのか、ということだ。

当たり前の話だが、「核兵器を持っていない北朝鮮」と「核兵器を開発中の北朝鮮」、そして「核兵器を実戦配備した北朝鮮」とでは、脅威の度合いがまるで違う。日本の安保論議はこれまで、せいぜい「核兵器を開発中の北朝鮮」までした想定してこなかった。安保法も、その産物である。

しかし、いま本当に必要なのは、「核兵器を実戦配備した北朝鮮」といかに向き合うかを考えることであるはずだ。核兵器を持っていない北朝鮮しか想定していない安保法では、日本を守れるとは思えない。

もっとも、北朝鮮が多数の核兵器を持ってしまったら、どんなにコストをかけても、日本を完璧に防御するのは不可能だろう。ならば、そのような不安を本質的に除去するためにも、日本は関係各国とともに、北朝鮮の民主化、すなわち金正恩体制の変更を考えていくべきだと思うのだが。

 

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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