北朝鮮が22日、相次いで発射した中距離弾道ミサイル・ムスダンのうち、1発目は150キロの飛行距離で空中爆発したものの、2発目は400キロ余りを飛行。韓国軍当局は2発目について、「技術的な進展があった」と見ている。本来なら500キロ以上の飛行が成功の目安となるが、北朝鮮は日本を刺激するのを避けるため発射角度を調整、地上1000キロの超高空まで打ち上げることで、飛距離を調整した可能性があるという。

北朝鮮の金正恩党委員長は3月、早い時期に核弾頭の爆発実験と核弾頭の装着が可能な弾道ミサイル発射実験を実施するよう指示。これを受け、4月15日に初めてムスダンの発射実験が行われたが、空中爆発して失敗した。

「血の粛清」の重圧

続いて同月28日に2発、5月31日に1発の発射実験が行われたが、いずれも失敗。5月の実験では移動式発射台の上で爆発したとも言われる。そして、今回の6発目でようやく、ある程度の成果が表れた形だ。

いま「ようやく」と述べたが、見方によっては、かなり早い段階で成果を出したと言えなくもなかろう。専門家によれば、空中爆発などの根本的な欠陥が認められた場合、数カ月から1年を経て再実験を行うのが「常識」だそうだ。

だが、それは費用対効果を考え、国民の血税や投資家のおカネを大事に使わねばならない民主主義国家における「常識」である。正恩氏が恐怖政治で支配する独裁体制においては、彼が「急げ」と言ったら開発部門は何が何でも急がねばならない。従わなければ「血の粛清」が待っている。

米韓の「斬首作戦」

ただそれにしても、正恩氏の急ぎ方は尋常でないようにも思われる。彼は、まだ30代前半と若い。健康管理さえきちんと出来れば、年を重ねながら経験や武器を蓄積できる。時間は彼の味方のはずだ。

なのに何故、こうも性急なのか。

その理由はやはり、恐怖心にあるのではないか。北朝鮮は今月に入り4回も、外務省報道官談話や官営メディアの報道などで、「米軍が『精密空襲作戦』を準備している」と非難している。米国防総省などと深い関係にあり、「影のCIA」とも呼ばれる民間シンクタンク、ストラトフォーが対北攻撃シナリオを発表したことに敏感になっているのだ。

これと似たようなことは、以前にもあった。米韓が正恩氏に対する「斬首作戦」を採用する動きを見せるや、半狂乱になって非難キャンペーンを繰り広げたのだ。

しかしそもそも、米韓がこのような動きに出るのは、「このままでは正恩氏の『核の暴走』は止まらない」との懸念からだ。核ミサイルを大量に実戦配備した独裁者と、核ミサイルをまだ持っていない独裁者とでは、後者の方が除去しやすいに決まっている。軍部などから「やるなら今のうちだ」との意見が出てくるのは当然のことだ。

正恩氏はそんな空気を感じ、ナーバスになっているのではないか。そして、一刻も早く核ミサイルを実戦配備することこそが、自分の身の安全を守ることにつながると考えているのではないか。

そしてその判断は、米韓に対し先制攻撃を選択する動機をさらに強く与える。目下、そのような戦略が具体化しているとは思えないが、近い将来にどのような変化が起きるか、何とも言えない状況になってきた。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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