海外に派遣された北朝鮮労働者の人権が著しく侵害されていることは、すでに国際社会の知るところとなっているが、ロシアの建設現場では、労働者の身体に危害が加えられるなどの極めて深刻な事態が起きていることがデイリーNKの取材で明らかになった。

現地の情報筋によると、今年のはじめにロシアのハバロフスクである北朝鮮労働者が現場から逃走する事件が発生した。この労働者は現場のそばの教会に身を隠していたが、発見され、監視役として派遣されていた国家安全保衛部員(秘密警察)に連行された。

彼は見せしめのためひどい暴行を受けた末に、骨と皮だけになって、足を包帯でぐるぐる巻きにされた状態でどこかに連れて行かれた。おそらく北朝鮮に強制送還され、家族もろとも収容所送りになったものと思われる。

想像を絶する虐待

このような「見せしめ」は決して珍しいことではない。

逃亡したり、賃金の遅配や劣悪な労働環境について不満を口にした労働者に対し、激しい暴力で応じるのは保衛部員たちにとって「基本中の基本」だ。

彼らは、労働者が再び逃げられないようにアキレス腱を切ったり、掘削機で足を叩き潰したりするなど、非道の限りを尽くしている。その背景には、北朝鮮の保衛部員にはロシアの司法権が与えられていないことがある。手錠を使うことすら許されないため、身体刑を加えるのだという。

監禁用の「牢屋」まで

ウスリースクの建設関係者は次のように述べた。

「ここはロシアだ。北朝鮮当局が自国民と言えども手錠をはめることは、ロシア政府が許さない。しかし、そのことが逆に、保衛部員に想像を絶する非人間的な方法を用いらせることになっている」

身体刑ばかりか、北朝鮮労働者が働く建設現場には牢屋が作られており、人が閉じ込められているという証言もある。

北朝鮮労働者との接触を続けてきた現地の宣教師によると、建設現場には牢屋が存在する。賃金や労働環境について不満を述べたり、逃亡を図った労働者を閉じ込める懲罰房だ。

このような牢屋に人を閉じ込めることは、ロシア刑法127条「違法な自由の剥奪」に違反する行為で、違反者は3年から5年の自由剥奪刑(懲役刑)に処せられる重大な犯罪だ。

監視する保衛部員も、監視される労働者も「人権」という概念すら持ち合わせていない。労働者は、労働党に捧げる外貨を稼ぐ道具に過ぎず、楯突く労働者を半殺しにしようが、殺そうが、何とも思わないというのだ。

命の値段は10万円

労働現場で事故に遭った場合も、悲惨なのは同様だ。

怪我をしてもまともな治療は望めない。治療費は全額自己負担になるため、とても払えず、ほとんどのケースで放置される。そればかりか、休んだ分の給料を削られてしまう。

北朝鮮労働者と頻繁に接触しているウラジオストクの韓国人ビジネスマンによると、北朝鮮労働者たちは「事故で死んだら、家族に1000ドル(約10万4000円)ぐらいは送ってくれるんじゃないか」と言っているという。

つまり、自分たちの命が1000ドルに過ぎないと考えているということだ。

ロシアも「加担」

実際、数年前に労働現場で死亡事故が起きたが、当局は他の労働者から10ドルずつ徴収して2000ドルを集め、半分を葬式代に使い、半分を家族に送ったというから、「北朝鮮労働者の命の値段は1000ドル」という話は、根拠のない話ではない。

カネを出したのは労働者だけで、支配人、保衛部員など管理する立場の人間はびた一文出さなかった。

支配人は責任を問われないよう、労働者を呼びつけて「今日は事故現場にいなかったことにしてくれ」と口裏合わせを要求する始末だという。

韓国統一省の推計によると、北朝鮮から海外に派遣された労働者は6万人。中には19万人に達するという情報もある。そのうち2万人から5万人ががロシアで働いていると言われている。

虐待を放置

ロシアへの労働力輸出は1940年代から行われていたが、外貨稼ぎを目的とした大々的なものは2000年にプーチン政権ができてからのことだ。

長年にわたって北朝鮮労働者への人権侵害が指摘されてきたが、ロシア当局は北朝鮮の管理する現場から逃げ出し、よその現場で働いていた労働者を摘発、強制送還するだけで、人権侵害に対しては何ら措置を取ろうとしていない。

ロシアは今年2月、国内にある国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の事務所を閉鎖する方針を示した。国内の人権状況が改善したというのがその理由だ。人権という概念を持ち合わせていないのは、ロシアも同じようだ。

    関連記事