資本主義化が猛スピードで進む北朝鮮で、経済の牽引役となっているのが「トンジュ(金主)」と呼ばれるニューリッチたちだ。彼らは、小売、貿易、運送、貿易業、さらには不動産に投資し、莫大な利益を上げ、北朝鮮当局はその一部を「忠誠の資金」として吸い上げる。つまり、北朝鮮当局とトンジュは、持ちつ持たれつの関係を築いているわけだ。

整形から覚せい剤ダイエットまで

国家権力と手を組んで成り上がったトンジュたちは莫大な財産を築いた。そうした家庭の子どもたちは、整形を厭わずZARAなどのファストファッションを好み、マダムたちは美容のための牛乳風呂、はては覚せい剤ダイエットにまで手を出すという驚くべき贅沢ぶりだ。

一方、国家機関は、表向きは良好な関係を築きながらも、彼らの持つ利権を虎視眈々と狙っている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、つい最近、秘密警察「国家安全保衛部(以下:保衛部)」が、50代のトンジュ女性の財産を全額没収する事件が起きたと報じた。

RFAの現地情報筋によると、中朝貿易の拠点の一つである恵山(ヘサン)市で、女性は、中国から輸入した品物を内陸地方に運ぶ中継貿易、卸売、運送を行い、地域一の金持ちとして知られていたという。そして、地元の保衛部はこの女性に目をつけた。

「保衛部の連中は、時間をかけて女性の身辺調査を行い、ある程度の証拠が揃ったところで女性を連行、6ヶ月間に渡って取り調べを行った。同時に、自宅に家宅捜索に入り、帳簿を押収、取引額を確認した上で、財産全てを罰金として没収してしまった」(現地情報筋)

保衛部が押収した額は数百万人民元に及ぶと言われている。(100万人民元は約1672万円)

利権めぐり「殺し屋」まで登場

女性は既に釈放されたが、全財産を失い路頭に迷っている。保衛部の、女性の財産をターゲットにした露骨なやり方を見た住民は彼女に同情し、保衛部のやり方を「充分に太るまで待ってから食い物にしている」と非難しているという。

一方、トンジュたちのカネを狙った詐欺事件、それも「オンナ詐欺師」による大型詐欺事件も発生している。あるオンナ詐欺師は、その類い希なる美貌を利用して、トンジュ男性から多額の現金を巻き上げたという。まさに資本主義社会顔負けの「オンナ詐欺師」っぷりだ。

さらに、今度はマフィア化したトンジュたちが「殺し屋」を雇い、当局者を惨殺したと見られる事件も相次いでいる。北朝鮮捜査機関も、犯人探しに躍起になっているが、10万人単位の特殊部隊出身者が巷にあふれる社会で、真相にたどり着くのは困難だろう。

こうした利権やカネをめぐって魑魅魍魎が跋扈する北朝鮮の実態は、平壌の表面的な発展ぶりからは決して見えてこない。そして、金正恩体制がいくら体裁を取り繕おうと、隠すことができない北朝鮮のもう一つの顔とも言える。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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