金正恩体制に入り、減少傾向を見せていた脱北者の数が、今年に入り徐々に増加に転じているようだ。

5日、聯合ニュースが韓国統一省の集計として報じたところでは、1月から5月末までに韓国に入国した脱北者は590余人で、前年の同じ時期に比べ16%増加した。

美女たちを指名手配

韓国に入国する脱北者の数は2009年には2914人に達したが、金正恩政権になって以降、減少傾向が顕著で、2012年に1502人、2013年に1514人、2014年に1397人、昨年は1276人となっている。減少の理由として考えられるのは、国内経済の若干の好転と、当局による中朝国境の監視強化、そして脱北の厳罰化と秘密警察の暗躍などだ。

だが、今年は現在のペースが続くと、年間の脱北者数は約1500人となる。増加に転じた背景には何があるのか。

まず考えられるのは、核実験・ミサイル発射に対する国連制裁の影響だ。制裁により、海外に赴任している外貨稼ぎの担当者たちが、ノルマ未達で下されるペナルティーに負担を感じ、逃亡の道を選んでいるのだ。

4月に発生した北朝鮮レストラン従業員らの集団脱北が典型的と言えるだろうが、北朝鮮本国もまた、これには警戒を募らせている。彼女らの顔写真や個人情報を公開し、「指名手配」とも言える措置を取っているのだ。

「地獄絵図」のウワサ

ただ、そのような強硬姿勢で、脱北を思いとどまらせることができるかは疑問だ。金正恩氏は、先月の朝鮮労働党大会で自らの独裁体制を強化すべく、一昨年あたりから無慈悲な粛清を繰り広げてきた。

党大会が開かれる頃には、正恩氏に対して批判どころか意見すら述べられない空気が支配的になり、彼の目論見はある部分では成功したと言える。しかしその反面、少なくない国民の間で、恐怖から逃れる機会への渇望が強まっているのだろう。

一方、党大会に先立って行われた大増産キャンペーンの重圧が、脱北増加を促している可能性もある。無謀なスケジュールで進められる北朝鮮の増産キャンペーンは、国民生活と経済の疲弊を招くだけでなく、大惨事につながるリスクと常に隣り合わせだ。そこで繰り広げられた「地獄絵図」について、北朝鮮国民は誰もがウワサぐらいは聞いている。

草の根資本主義の広がりとともに、北朝鮮国民は経済的にも思考の面でも国家からすっかり自立している。今後、さらに多くの人々が「こんな国、やってらんねえ」と見切りをつけたとしても、何ら不思議ではない。

いずれにしても、脱北者の増加は明らかに正恩氏の失政の表れと言えるだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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