北朝鮮が31日午前5時20分ごろ、東海岸の元山地域から中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイル1発を発射したが、結果は失敗だったようだ。北朝鮮はムスダンを4月15日に1発、同28日に2発発射したが、いずれも失敗に終わっており、4回連続で失敗したことになる。

これを見て、「金正恩党委員長のメンツは丸つぶれになった」と評する声がある。しかし、本当にそうだろうか?

正恩氏の「ヤバさ」の本質

ムスダンの射程は3000~4000キロで、日本全土とグアムまで到達することから、在外米軍をターゲットにした兵器と見られている。ロシア製の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)のR27を改造したもので、北朝鮮は発射実験もなしに2007年に実戦配備した。

北朝鮮がムスダンの実戦配備を急いだのは、米国のブッシュ前大統領による「悪の枢軸」発言が背景にあったように思われる。ブッシュ氏は2002年1月29日の一般教書演説で、北朝鮮とイラン、イラクの3カ国を「悪の枢軸」と総称して名指で批判。翌年3月にはイラク戦争に踏み切った。

こうした動きに、北朝鮮が脅威を感じなかったはずはない。当時の最高指導者だった金正日総書記には、とにかく米軍基地に届く――あるいはせめて、「届きそうに見える」ミサイルが抑止力として必要だったのだろう。だから、ムスダンの「信頼性」は二の次だったのだ。

ならば、正恩氏は今になってなぜ、失敗を繰り返しながらムスダンを撃ち続けているのか。それは、ムスダンの「信頼性」が重要になってきたために、改良を図っているからだろう。どうして今、「信頼性」が重要になったのか。それはミサイルに搭載する核弾頭が完成したか、完成に近づいているからであるはずだ。

正恩氏は恐らく、メンツなど気にしてはいないのだろう。そんなことより、1日も早く「核ミサイル」を実戦配備することを優先しているのだ。

それに正恩氏は、米国を対話に引き出すための「ラブコール」としてミサイルを発射しているのでもない。体制の根幹をなす人権問題で国際社会の追及を受けている以上、対話によって多くを得られないであろうことに、彼は気づいている。

つまり私たちには、北朝鮮のミサイル発射の失敗を、笑いながら眺めている余裕などないということだ。このまま行けばいずれ、正恩氏は核ミサイルを握った最初の独裁者となる。今こそ、私たちは正恩氏の「ヤバさ」の本質に目を向け、必要な行動に移るべきなのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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