韓国国防省によると、北朝鮮が15日午前5時半ごろ、東海岸で弾道ミサイルを発射。中距離弾道ミサイルのムスダンと推定されているが、発射直後にレーダーから消えたことや正常な軌道ではなかったことから、失敗したものと見られている。

とはいえ、北朝鮮が国連決議違反となる弾道ミサイルの発射を、国連安保理の制裁下で行ったのは、あくまで「我が道」を行くのだという強力なメッセージと言える。

ところで、今回の件も含め、各国政府やメディアは「挑発」という言葉をよく使う。辞書によれば、「挑発」とは「相手を刺激して、事件や紛争などを引き起こすようにしむけること」だとされている。ということはつまり、北朝鮮の行為が「挑発」である場合、「こちらは無暗にそれに乗って、対立を激化させてはならない」という論理が働く。

問題は、金正恩氏の意図が、本当に「挑発」にあるのかどうかだ。彼の行動をそのように見るのは、その危険性を過小評価することにつながるのではないか。

昨年8月、韓国と北朝鮮が対峙する非武装地帯で、北朝鮮が仕掛けた地雷の爆発事件が起きた際、これも韓国に対する「挑発」であるとみなされた。ところがその後、南北間で軍事衝突の危機が高まるや、金正恩氏は韓国の朴槿恵大統領との「チキンレース」でまんまと敗れてしまったのだ。


長引く経済難で、北朝鮮の軍の大部分は惨憺たる状態に置かれている。軍隊だけでなく、国民の意識の面でも、とても戦争が出来るような状態ではない。大衆は「祖国のために戦う」どころか、金正恩氏が「準戦時状態」を宣言したのに対して「戦争ごっこ」と揶揄していたぐらいなのだ。

戦争への備えがなければ、「挑発」を繰り返すことに意味はない。むしろ逆効果でさえある。8月の軍事危機をきっかけに、米韓は金正恩氏に対する「斬首作戦」の導入に向けた動きを見せ始めた。金正恩氏はこれを受け、明らかにナーバスになっている。

そして、軍がとうてい通常兵力で米韓と戦える状態ではないことを、金正恩第1書記のみならず北朝鮮指導層も充分認識しているだろう。だからこそ、北朝鮮は一撃必殺の「核兵器」にこだわるのだ。実戦配備されて長らく発射実験の行われていなかったムスダンの初のテストを、今回敢えて行ったのは、核戦力の強化に向けた思惑があったのではないか。

金正恩氏は、自分の権力と安全を守るためにも、核戦力の整備を急いでいる。それこそが彼の「暴走」の意味であり、彼の危険性を物語るものなのだ。それを、いつまでも「挑発」としか捉えられないなら、私たちはより大きな危機に備えるための、貴重な時間を浪費してしまうかもしれない。


高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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