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軍隊だけでなく、国民の意識の面でも、とても戦争が出来るような状態ではない。大衆は「祖国のために戦う」どころか、金正恩氏が「準戦時状態」を宣言したのに対して「戦争ごっこ」と揶揄していたぐらいなのだ。

戦争への備えがなければ、「挑発」を繰り返すことに意味はない。むしろ逆効果でさえある。8月の軍事危機をきっかけに、米韓は金正恩氏に対する「斬首作戦」の導入に向けた動きを見せ始めた。金正恩氏はこれを受け、明らかにナーバスになっている。

(参考記事:北朝鮮「先制攻撃」声明に見る金正恩氏の「メンタル」問題

そして、軍がとうてい通常兵力で米韓と戦える状態ではないことを、金正恩第1書記のみならず北朝鮮指導層も充分認識しているだろう。だからこそ、北朝鮮は一撃必殺の「核兵器」にこだわるのだ。実戦配備されて長らく発射実験の行われていなかったムスダンの初のテストを、今回敢えて行ったのは、核戦力の強化に向けた思惑があったのではないか。

金正恩氏は、自分の権力と安全を守るためにも、核戦力の整備を急いでいる。それこそが彼の「暴走」の意味であり、彼の危険性を物語るものなのだ。それを、いつまでも「挑発」としか捉えられないなら、私たちはより大きな危機に備えるための、貴重な時間を浪費してしまうかもしれない。

(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑
(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記