安全保障関連法が29日、施行された。これで、日本は集団的自衛権の行使に踏み込むことになった。集団的自衛権とは、日本にとって重要な友好国が他国から攻撃された場合、いっしょに反撃する権利のことだ。

安保関連法が念頭に置いているのは、言うまでもなく米国との関係である。米国と相互に守り合い、「日本としての防衛上の役割を増すことで、発言権を維持し、同盟の絆が強まる」(産経新聞)との主張がある。

確かに、それはそうかもしれない。

しかし不思議なのは、どのように米国を守るかという論議が、国会でもほとんどなされていないように思えることだ。

語られているのは、どこか日本から遠く離れた国や地域における戦争での「後方支援」が主だ。例えば湾岸戦争やアフガニスタン戦争、イラク戦争、アフリカにおける紛争のようなものが想定されているのだろう。

しかし、日本の近くの状況をよく見て欲しい。北朝鮮は核武装を急いでおり、米国に対する「先制攻撃」についても繰り返し言及している。

今はまだ、北朝鮮が米国中枢を核攻撃できる能力を持っているとは確認されていない。しかし、それは時間の問題というものだ。それに、日本の大部分を射程に収める中距離弾道ミサイル・ノドンにはいずれ核弾頭が装備されると予想されているし、その主要なターゲットには必ず在日・在韓米軍基地が含まれる。

また、北朝鮮が開発中の弾道ミサイル潜水艦の基地は、日本海側に置かれている。これは、いずれ日本列島の脇をすり抜けて太平洋に進出し、米国に照準を合わせようとの意図をうかがわせる。

「日本企業」の影)

これらの危機に対し、日本はどのように対処するのか。自分の目と鼻の先で米国に向けて核ミサイルがぶっ放されそうな状況にあって、まさか「後方支援」だけで済ませるわけにも行くまい。

核攻撃は、通常兵器による攻撃とはまるで違う。どんなミサイル防衛システムも、完全無欠にはなりえない。間違って1発でも着弾してしまえば、その被害と悪影響は想像を絶する。

何が言いたいかといえば、日本の政府や政党、国会は集団的自衛権について論じるならば、北朝鮮が日本の同盟国を核で威嚇した場合に、先制攻撃によって食い止める可能性を話し合うべきだということだ。


世界の軍事情勢は流動化しており、20年前であれば想像もできなかったようなことが当たり前のように起きている。「やるか、やられるか」というギリギリの状況を想定できないなら、集団的自衛権など捨ててしまった方が良い。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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