国連の人権理事会は23日、北朝鮮における人権侵害を非難する決議を採択した。決議のベースになっているのは「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)だ。

報告書に記された北朝鮮の人権侵害状況は多岐にわたる。その中では、女性の人権状況と関連し「女性や少女は人身売買の被害を受けやすく、また、性的取引及び売春への従事が増加している」と指摘している。

実際、こうした女性に対する人権侵害に関しては、北朝鮮国内から数多くの情報が漏れ伝わっている。

この北朝鮮女性の人身売買については、今なお現在進行形だ。その舞台となっているのは中朝国境。つい最近では、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、次のような実態を伝えた。

中国の犯罪組織と結託した売春斡旋業者は、北朝鮮国内の人身売買ブローカーに「若くてきれいな女性を送ってくれ。経験者でも構わない」と要求する。ブローカーは、北朝鮮の清津(チョンジン)、咸興(ハムン)、南浦(ナムポ)などの「待機所(違法宿泊所)」を回る。そして、売春を行っている女性を「中国に行けば大儲けできる」などと言って誘い、中国に送り出す。彼女たちは、中国で売春に従事させられるだけでなく、不法入国者ということから強制送還の恐怖にも怯えなければならない。もちろん、何ら法の保護を受けられない。

ある脱北女性(30代)によると、「中国で結婚させてやる」と言われて、脱北したものの強制的に売春に従事されられるケースもある。その一方で、中国人男性と結婚し、子どもを産んで暮らすケースもある。しかし、結婚相手やその家族に暴力を振るわれたり、子どもを奪われたりするなど、必ずしも平穏な暮らしを送れるわけではない。

また、人身売買とは違った形で中国人男性と結婚した北朝鮮女性が、公安当局により摘発。北朝鮮に強制送還され、家族が離ればなれになるケースも多数報告されている。送還された女性が、当局にひどい目に合わされるのは言うまでもない。

こうした人身売買が横行する背景には、北朝鮮国内で売春が広がっていることがある。90年代中盤からの経済難によって広がった売春は、組織化が進んでいる。これに目をつけた中国の人身売買業者は、10代、20代の北朝鮮女性を中国人民元で2万元から3万元(約36万円~54万円)で売買しながら、上海の南の浙江省や福建省の売春業者に送り込んでいるという。


売春に対して、北朝鮮当局もそれなりに問題意識はあるようだ。実際、金正恩第一書記も「売春を根絶しろ!」との指示を下しているという。

しかし、売春業の拡大や人身売買の現場には、朝鮮労働党や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の国家機関や個人が、多かれ少なかれ関わっている。また、米国務省が発表した「2015年人身売買報告書」は、北朝鮮は人身売買の防止において2003年から13年連続で最低クラスに指定されるなど、一向に改善の余地は見られない。つまり、中朝国境での人身売買の横行は、金正恩体制の責任が大であると言えるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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