国際社会による経済制裁下でも、北朝鮮の民生経済に大きな変動が起きたとの情報は、今のところもたらされていない。最近では、厳冬期から春物への衣替えの季節を迎え、市場では新しい靴がよく売れているという。

北朝鮮には平壌、新義州(シニジュ)、順川(スンチョン)、恵山(ヘサン)に大規模な国営靴工場がある。金正恩第1書記が訴えている「輸入病(輸入に依存する傾向)の根絶」に合わせて、各工場で新しいデザインの様々な靴が製造されている。

しかし、生産量が限られている上に、当局のプロパガンダとは裏腹に、国営工場の靴はデザインがイマイチで消費者に人気がないというのだ。

特に流行に敏感な若者にとって、ダサい国産の靴は恥ずかしくてとても履けないという。市場に行けば、韓国製や中国製のオシャレな靴が売られているが、高くて手が出ない。そこで、個人経営による多くの「草の根企業」が靴の製造に乗り出している。

女子高生の工員も

北朝鮮では、どのようにして靴が作られるのだろうか。 「草の根企業」による靴の製造は、原材料の供給、裁断、靴底、靴ひもの製造などの分業制になっている。まず原材料は、新義州の行商人が中国から輸入し、各地の工場に持ち込む。行商人と言っても、無闇に売り歩くのではなく、決められたルート、つまり原材料の供給ネットワークに従って納入している。

各パーツを作る工場は、民家や国営工場の空き倉庫を借りた小規模なものが一般的だ。家族総出で作業を行う例が多いのだが、少し規模が大きくなると従業員を雇うようになる。

工場には、女子高生の工員も多い。なぜか彼女らに人気があるのは、靴ひもを通す穴の金具を作る工場での仕事だ。アルミや亜鉛の板から金具を打ち出す仕事で、給料は1日にコメ1キロ、現金にすると5000北朝鮮ウォン(約75円)になる。一方、靴底の製造は成人女性に人気の職種だ。危険を伴う工程なので、給料は倍になる。

トンジュが投資

このような靴の製造工場は平壌の北にある平安南道(ピョンアンナムド)に集積しているが、それには訳がある。 靴底はゴム製であり、ゴムを加工するには石炭の火で加熱する必要がある。平安南道で採掘される石炭は熱量が少なくとも5500カロリーに達し、ゴム加工に使えるが、他の地方の石炭は熱量が低く過ぎるのだ。

「それなら平安南道から石炭を取り寄せればいい」と思う向きもいるだろうが、道路網が発達していない北朝鮮では、重量のある石炭を輸送するだけで値段が数倍に跳ね上がってしまう。

そこで、民間の靴工場に投資するトンジュ(金主、新興富裕層)は、地元ではなく平安南道の靴製造工場に投資し、完成した靴を地元に運んで売りさばく方がより多く儲けられるわけだ。

国家は堕ち、民間が勃興

平安南道の中でも、特に製造業が発達しているのが、平壌から北東に50キロ離れた順川(スンチョン)だ

炭鉱地帯にある順川は、燃料供給にも問題が少ない。交通の要衝のひとつでもあり、材料の入手や完成品の輸送も容易だ。さらに平壌という大消費地も近い。

電力難の深刻な北朝鮮だが、電気が優先的に供給される国営工場の建物を借りることで、ミシンなどの機械の使用にも問題がない。

国際社会の経済制裁強化により、国主導の計画経済はますます苦境に追いやられることが予想されるが、「草の根資本主義」がその穴を埋めることが出来れば、北朝鮮の資本主義化はますます進行するだろう。

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