国連の制裁強化によって、北朝鮮は今後ますます外貨不足に陥ることが予想され、国内では庶民の間に不安が広がっている。

こうしたなか北朝鮮当局は、海外へ労働者を派遣して外貨を確保する動きを見せている。とりわけ重要な収入源である北朝鮮レストラン、通称「北レス」では、ウェイトレスらの美貌を武器にした商売に躍起になっている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、ミャンマーに在住する韓国人がヤンゴン市内にある「平壌高麗食堂」を訪れたところ、美人ウェイトレスから花束を押し売りされたという。

「食事の間に余興で美人ウェイトレスのショーが行われる。彼女たちに促されるまま、舞台上で造花の花束を渡して記念写真を撮ったところ、花束1束に9ドル(約1023円)を要求された」(ミャンマー在住の韓国人)

この韓国人によると、レストランの経営は芳しくない様子だとのこと。そもそもミャンマーには一般的な「韓国レストラン」もあり、味も施設も良く、さらに値段も安い。かつては物珍しさに韓国人客も北レスを訪れたが、昨年11月に駐ミャンマー北朝鮮大使が、米財務省から「大量破壊兵器と関連のある人物」として名指しされて以降、客足は大幅に減ってしまった。また、核とミサイルに関連して、韓国政府は北朝鮮レストランに行くことを自粛するよう勧告を出している。

北レスの新手商法、「花の押し売り」は、今後も売り上げ減少が予想される中、少しでも儲けを確保する狙いがあると見られるが、あまり強引なやり方では、かえって客が逃げてしまいかねないだろう。

一方、中国のデイリーNK対北朝鮮情報筋によると、遼寧省の瀋陽や丹東の北朝鮮レストランは、今のところ営業不振に陥っている様子は見られないが、レストラン幹部は経済制裁の動き次第では客が減ると不安がっている。また、韓国人観光客も、殺伐とした雰囲気のため北朝鮮レストランに寄り付こうとせず、北朝鮮とのビジネスを行っている中国の貿易業者も足が遠のいているとのことだ。

幹部たちは、このままでは毎月の上納金も、朝鮮労働党第7回大会の「忠誠の資金」も収められなくなり、罰として強制的に帰国させられるかもしれないと怯えている。そうなれば政治的生命は終わり、再び国外に出ることはできなくなる。

無理難題を押し付けられたレストランの幹部たちは、飲食業ではなく性産業への業種替えを検討しているとのことだ。

もちろん、こうした制裁不況に対して、北朝鮮当局が対策を講じるわけではない。むしろ、「北朝鮮では『70日戦闘』が始まった、中国でも忠誠の外貨稼ぎ運動を頑張って労働党第7回大会を素晴らしいものにしよう」「レストランの幹部は『自強力』精神で外貨稼ぎに励め」などと無茶な要求をする。

環境が整っていないにもかかわらず36年ぶりの党大会開催を決定したり、周辺諸国の反発を顧みず核とミサイル実験を強行する金正恩体制の暴走のしわ寄せは、こんなところにも及んでいる。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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