米韓の海兵隊が来月の合同演習で、北朝鮮内陸部への進撃を想定した訓練を強化するという。有事の際、迅速に核・ミサイル施設を破壊することが目的だ。

両国は昨年11月、北朝鮮ミサイル施設の「探知(Detect)」「かく乱(Disrupt)」「破壊(Destroy)」「防御(Defence)」からなる「4D作戦概念」の履行指針で合意。核・ミサイルに対する早期警戒と破壊のための取り組みを強めている。

それとは別に、韓国軍は金正恩氏らに対する「斬首作戦」の導入を推進。米軍もまた、イラク戦争やアフガニスタンで敵要人の暗殺などを担ってきた特殊部隊を韓国にローテーション配備した。

従来にも増して北朝鮮の「有事」を強く意識した動きだが、韓国の情報機関は北朝鮮の軍内部に不穏な空気を察知しているようでもあり、あながち「気負い過ぎ」とも言えない所がある。

では、こうした取り組み実際の「有事」において、どの程度有効なのだろうか。核・ミサイル施設はもちろん、金正恩氏の「牙城」となる地下要塞の軍事指揮施設への接近は容易ではなかろう。

米韓は航空・海軍戦力で圧倒的に優勢だが、それは「アウェー」となる地上の戦いではどうか。朝鮮人民軍の一部は士気・練度において相当なレベルを保っていると思われ、苦戦も想定しなくてはなるまい。

実際、北朝鮮が核施設の防御力を試すために自ら行った演習では、施設への接近を試みた50の精鋭部隊が防衛隊により全滅させられたとの話もある。

一方、日本の自衛隊が北朝鮮の領土内に侵入し、拉致被害者らを救出する可能性はあるだろうか。その問いには、「限りなくゼロに近い」と答えるべきだろう。それは決して、個々の自衛官の能力のためではない。原因は、北朝鮮対策を「やっているフリ」だけでお茶を濁してきた政治の不甲斐なさにある。

もっとも、米韓とてそう簡単に地上部隊を北へ送ろうとはしないだろう。いや、もしかしたら最後まで決断できないこともあり得る。なぜなら、北朝鮮は実質的な核武装国だからだ。自国内に攻め込んできた敵軍をせん滅するのに、弾道ミサイルを使う必要はない。相手の侵入ルートになると思しき複数の地点に「核地雷」を埋めておけば、大量の敵兵を一瞬で殺すことができる。

その犠牲に、民主国家は耐えられないだろう――こうした読みこそが、正恩氏がヤケクソながらも強気でいられる理由なのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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