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学業を放棄した北朝鮮の若者の多くが選択するのは「商売」だ。生まれてから飢えと貧困で鍛えられた北朝鮮の若者は、ハングルと九九だけ覚えたら、商売に目を向けざるを得ない環境に置かれる。北朝鮮全体がそうしたシステムで動いているため、若者たちも商売のやり方から学ぶようになる。

最近、「150日戦闘」を始めとし、様々な住民動員事業の影響を受けて、大人の商売活動が統制を受けるようになり、その穴を若者たちが埋めている。北朝鮮で商売をしている若者たちのことを指す、「第3経済」という新語まで登場した。

北朝鮮政府は人民経済分野を「第1経済」、軍需経済分野を「第2経済」と呼んできた。だが、2000年代以後北朝鮮の市場が発展するにつれて、住民を新しい言葉で区別するようになった。「第1経済」は政府主導の経済、「第2経済」は市場と人民が主導する経済と言われるようになった。したがって、「第3経済」には若者たちが主導する経済という意味がある。

「第3経済」の出現で路上に現れた子どもたち

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今年7月6日に金正淑(キムジョンスク)郡の道路で、恵山(ヘサン)中小炭鉱連合の自動車が横転して8人が死亡したと伝えた。死者のうち5人は恵山市の恵化(へファ)中学校の生徒たちだった。彼らは中国製品を売るために、金亨稷(キムヒョンジク)郡に向かう途中、このような事故に遭ったという。

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現在、北朝鮮の市場は「150日戦闘」動員令のために開場時間が午後4時過ぎに変更されている。そのため、住宅街のあちこちで路地市場が開かれているが、大人に代わって若者が物を売っている。

情報筋は「『150日戦闘』のため、両親が職場に無条件出勤しなければならなくなり、生活が苦しい家庭は若者たちが生計を立てるために外に出ている」と言い、「若者たちが商売をするのも、仕方がない選択」と嘆いた。

商売をする若者たちは、コチェビ(浮浪児)や不良少年ではない。午前は学校で授業を受けて、午後は両親に代わって路地市場に行く。5~6年前なら商売をする若者に対して「どうしようもない親のせいだ」という社会的な同情があった。だが今は違う。両親と家族のことを考えて、早くから最小限の責任を果たそうとする「利口な人」たちである。

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商売をする若者たちにとって学校はもはや、首領と指導者、国家と党を学ぶ場所ではなくなっている。学校で商売に関する情報やアイディアを入手する。生徒どうしが取り引きをして品物を売買する光景もよく見られるようになった。

情報筋は「最近、市場の取り締まりが厳しくなって品物があまり売れないが、学校に直接品物を持ってきて売る生徒が増えている」と話した。クラスの友逹どうしで取り引きする時は、社会の市場よりも高い「信用」が保障される。値段交渉もやりやすいため、両親までも若者を通じて必要な品物を購入することがある。

この情報筋は「学生かばんはもはや商売用だ」「かばんを探っても本はなくて、ガムやキャンディー、明太、靴下などの品物だけがつまっている、さらには同じクラスの生徒を相手にタバコだけ専門に売る若者もいる」と伝えてきた。

生徒の商売の実態に教育当局「衝撃」

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若者の商売「ブーム」は北朝鮮の教育当局にも大きな衝撃を与えている。6月30日に両江道恵山市の教育当局が渭淵(ウィヨン)中学校の生徒に対して荷物検査を行ったところ、半数以上の生徒のかばんの中に、商品がつまっていたという。

この日の検閲で一番多く出た品物は、中国のガムとボールペン、手帳、ライター、そして最近中学生の間で流行っている中国製の体育帽子と半ズボン、シャツだった。中には、石ころや鉄の玉を入れて使う、中国のおもちゃのピストルやタバコまであったという。生徒のかばんはまさに、市場の売台の縮小版だった。

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この日のかばん検閲の結果が、両江道の党から平壌の中央党まで報告されたという裏話もある。

北朝鮮で若者が商売をする理由は大きく2つの部類に分けられる。まず、家庭の生計を助けたいという生徒たちが商売をしている。それ以外に、同年齢の友達の間で商売が広まり、小遣い稼ぎのために商売を始める中産層の家庭の生徒もいる。

学校が要求してくる各種の社会支援品を手に入れるために商売をする生徒も増えている。学校では、学校の施設の補修や社会建設現場に送らなければならない慰問品の準備という名目で、生徒からお金を集める。甚だしくは、結婚する担任の先生の結納品を用意するためにお金を集めることもある。

家族のために商売を始める生徒の多くは、両親が直接、取り引きするための品物を用意してくれて利益を計算してくれるため、両親の商売を基盤にして仕事をしている。

問題は小遣いを稼ぐために商売をする生徒だ。こうした生徒たちは、犯罪の誘惑にも遭いやすい。小遣い稼ぎのために商売をする生徒の多くが、組になって行動している。農村の生徒たちは主に、海辺で潮干狩りをしたり、砂金を採取したり、薬草を採ってお金を稼いで互いに分け合っているが、都市の生徒には密輸や窃盗などの犯罪に手を出す者もいる。

風前の灯のような北朝鮮の「希望」

なかには若者を犯罪に加担させる親もいる。若者を利用すれば、北朝鮮政府の取り締まりを避けやすいからだ。

5月5日に両江道の恵山競技場では、麻薬に関連した公開裁判が開かれた。裁判を受けた6人の罪目は「麻薬の販売」だった。そのうち4人は、自分の若者や同じ人民班の女子中学生を利用して麻薬を運ばせていた。

若者の商売が普遍的な現象となり、文化も変わってきている。

北朝鮮の若者は、他校の生徒どうしがしばしばいがみあい、組になってけんかをしていた。血気盛んな10代は道で目があっただけでもけんか腰になる。けんかが始まると学校の名誉のためと言わんばかりに、猫も杓子も寄ってたかって争うので、目があっただけでもけんかが大きくなることもよくあった。

だが、今は違う。情報筋は「最近は互いに協力し合って商売をしている。『取引関係』が深まったためか、学校どうしのけんかが消えて、他の学校の生徒ともうまくやっている」と説明した。

情報筋によれば、両江道恵山市では馬山(マサン)中学校、チュンドン中学校、劔山(コムサン)高等中学校のように、国境から離れている学校の生徒は、主に古鉄や薬草などを国境地域の中学校の生徒のために調逹しているという。逆に、鴨緑江のそばにある恵炭(ヘタン)高等中学校、江岸(カンアン)高等中学校、城後(ソンフ)高等中学校の生徒は、国境の密輸で流通している品物を周辺の学校の生徒たちに渡してやっている。学校間での流通ルートが作られているのだ。

今北朝鮮の若者たちは、自分の小遣いだけでなく、家の生計の責任も負わなければならない立場にある。さらに、学校が要求してくる様々な募金も自分で解決しなければならない。こうした生徒たちのことを心から心配している北朝鮮の大人たちは、10年後にはこの子たちが導くことになる国を非常に憂いている。北朝鮮では次の世代に期待するという「希望」さえも崩壊しているからだ。
<特別企画「崩壊した北朝鮮の公教育」 終り>