実は、加害者の兵士が着ていたのは、個人業者が作った「偽物の軍服」だった。国から支給される冬用の軍服は質がよく、1着40万北朝鮮ウォン(約6000円、コメ80キロ分)もする。軍の指揮官は支給された軍服を市場に横流し。その代わりに、個人業者に1着20万北朝鮮ウォン(約3000円)で作らせ、末端の兵士に配給する。その差額を横領していたのだ。
被害者が「本物の軍服」を着ているのを見て、加害者の兵士らは、それを奪い取ろうとして犯行に及んだのだ。
指揮官が、そこまでして横領に走るのは軍からもらえる給料が少なすぎて生きていけないからだ。4人家族が1ヶ月食べるには100万北朝鮮ウォン(約1万5000円)が必要だが、大尉は4000~5000北朝鮮ウォン(約60円~75円)、連隊長でも5000~6000北朝鮮ウォン(約75円~90円)で、コメ1キロ買えるかどうかの超薄給しかもらえない。非現実的な給与体系は、北朝鮮の「構造的欠陥」の一つだ。
かつては国からの配給が手厚く、現金はさほど必要なかったが、まともな配給が期待できず、草の根市場経済化の進んだ今の北朝鮮では、不正を働き現金収入を確保しなければ、一家全員餓死を免れないのだ。