北朝鮮が核開発を継続する中、核実験の過程で、深刻な人権侵害が行われていることが明るみに出つつある。

実は、核実験施設があるとされている豊渓里(プンゲリ)近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)が存在する。ここに収容された政治犯が、核実験施設で防護服なし、すなわち放射能に被ばくしながら強制労働させられているというのだ。

北朝鮮当局は、国民の反発を抑えるため「見せしめ」の公開処刑をおこなっているが、核施設での極めて危険な強制労働も、隠れた人権侵害の一つと言える。

遺体は放射性廃棄物扱い

ただし、こうした実態は、2006年の初の核実験直後から指摘されてきた。

収容所の警備兵出身で脱北者のアン・ミョンチョル氏は、「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」と証言。彼によると、それ自体が恐怖の対象だったという。

アン・ミョンチョル氏の貴重な証言は、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)に数多く収められている。証言のなかでは、「母とその子は収容所内の懲罰棟に連行され、赤子は犬のエサの器に投げ込まれた」など、衝撃的で生々しい政治犯収容所実態も明らかにしている。

殺人や拷問などありとあらゆる人権侵害が横行する北朝鮮収容所の現況からすると、核実験施設の強制労働もさもありなんだ。そもそも、北朝鮮当局からすれば政治犯は「敵対勢力」であり、強制労働させても放射能で被ばくさせても何ら罪の意識を感じないようだ。看守たちも「収監者は殺してもいいという教育を受けているため、政治犯の放射能被ばくなど気にもかけない」という。

さらに、核実験場という性格上、建設は秘密裏に行われるため一般住民は動員しづらい。確かに政治犯ならよほどのことがない限り情報は漏れず、万が一のことがあっても隠蔽しやすい。

また、アン・ミョンチョル氏の指摘にあるように、第1次核実験の時から従事させられているため、坑道の採掘作業に慣れているという事情もあるようだ。労働者たちは核実験場の坑道を掘る工事に加えて、実験終了後は周囲の除染作業もしなければならない。

被ばくによる死亡者の発生については、全くもって不明だ。そもそも収容所は極めて劣悪な環境にあり、拷問や暴行で殺される人が後を絶たない。遺体は放射性廃棄物扱いされ統制区域に埋められるという。

こうした例に限らず、北朝鮮の核開発による弊害はあちこちで出ている。たとえば、ウラン鉱山で働く労働者の平均寿命がその他の地域に比べ著しく短い。また、放射能汚染による奇形児の出産も多発しているという内部情報筋の証言もある。

北朝鮮が核実験をする度に、国際社会への脅威という視点で論じられることが多いが、それ以上に北朝鮮国民の生存権も脅かしているのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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