北朝鮮の金正恩第1書記が1日、今年の施政方針に当たる「新年の辞」を肉声で発表した。その内容を受け、日韓の主要メディアの中には次のように報じているものがある。

金正恩氏、南北対話に意欲 「新年の辞」演説で(日経新聞)
正恩氏は「我々は北南の対話と関係改善のために今後も積極的に努力する」とした上で、「平和と統一を望む人ならば誰とでも対座し、民族問題をわだかまりなく議論する」と述べ、南北対話に意欲を示した。

金正恩氏、南北関係改善へ努力 「新年の辞」を発表(東京新聞=北京共同)
【北京共同】北朝鮮の金正恩第1書記は1日、国営メディアを通じ、今年の施政方針に当たる「新年の辞」を発表した。韓国との南北関係改善に向けて「積極的に努力する」と表明した一方、朝鮮半島情勢を緊張させるとして米韓合同軍事演習の中止を要求した。

金第1書記が「新年の辞」 南北対話の意思示す(聯合ニュース)
北朝鮮の金正恩第1書記は1日、今年の施政方針に当たる「新年の辞」で、「平和と統一を望む人なら誰とでも向き合い民族問題、統一問題を虚心坦懐(たんかい)に議論する」と、南北対話への意思を示した。

「核爆弾を爆発させ」と言っている

まるで金正恩氏が「対話派」になったかのような書き方だが、記者たちは果たして原文を読んでいるのだろうか。

もしかして、北朝鮮関係の速報ではいちばん速い聯合がこの調子で書いたことで、原文を読まぬまま引きずられてしまってはいないか。朝鮮中央通信が配信した新年の辞の全文を見ると、次のような一文がある。

「南朝鮮当局者は、外部勢力と結託して同族に反対する謀略騒動に固執しながら、私たちの民族内部の問題、統一問題を外部で持ち歩いて請託する行為を繰り広げています。これは外勢に民族の運命をさらし、民族の利益を売り渡す売国背族行為です」

南北統一問題に言及した部分の半分以上はこの調子だ。北朝鮮がレトリックを効かせるのはいつものこととは言え、こうした内容にまったく言及しないままさらりと「南北対話に意欲」などと書いてしまっては、読者をミスリードしないか。

ちなみにハングルが読めなくとも、朝鮮中央通信は要旨の日本語版を早い段階で配信している。

むろん、金正恩氏が南北対話に言及しているのは事実だが、背景として、昨年の軍事的緊張に際し韓国とのチキンレースで一敗地に塗れた経緯を想起しないわけにはいかない。

北朝鮮は金正恩氏の権威失墜を取り繕うため、様々な「言い換え」に精を出してきているのだ。

ちなみに聯合ニュースは「今年は核について、直接言及しなかった」とも書いているが、正恩氏は「核爆弾を爆発させ」との表現は使っている。

以上、読者たちは誤解のなきように。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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