北朝鮮で、一般庶民が作り上げた「草の根資本主義」を規制する動きが出ている。

市場に流通するコメをはじめとする様々な商品を検閲。最悪の場合は、売り物が没収されるという商人にとっては無慈悲な規制だ。

現場で取り締まるのは「労働者糾察隊」。各市や郡の人民保安部、日本で言う警察にあたる治安機関の傘下に置かれた組織だ。メンバーは、地域の「青年同盟」という青年組織から選ばれる。

名前からして、イカついイメージを持つが、そのやり口も乱暴で、住民からは「強盗団」「暴力団」と、恐れられている。

市場を席巻する海外製品

市場経済が席巻する北朝鮮の市場では、海外、主に中国製品が席巻している。基本的に海外製品は禁制品であり、厳密に法を執行すれば、ほとんどが没収されかねない。とはいえ、杓子定規に取り締まっていたら、市場自体が成立しないことから、治安機関も見て見ぬ振りをしてきた。

しかし、労働者糾察隊は、片っ端からイチャモンを付けて、有無をいわさず商品を没収する。さらに、北朝鮮北部の清津(チョンジン)市に位置する全国有数の「水南(スナム)市場」では、警察が労働者糾察隊の隊員に「1日20万北朝鮮ウォン(約3000円)の品物を没収せよ」というノルマを課しているという。

本来、こうした取り締まりを行うのは警察だ。では、なぜ「労働者糾察隊」の横暴がまかりとおるのか。

実は警察は、日常的に市場の商人からワイロを掴まされていることから、もちつもたれつの関係で、普段は比較的大人しいのだ。しかし、年末のこの時期は、“ある事情”で商人からワイロを集めなければならない。

警官が年末にワイロを集めるワケ

その事情とは、「忘年会」や「新年会」。といっても、飲み食いのためではない。酒席で上層部にワイロを掴ますためだ。この時期にワイロが渡せないと、上役からの心証が悪くなり、便宜を図ってもらえなくなる。

しかし、ワイロ集めのために、警察官が現場に出向いて商人たちを締め上げてしまうと、今度は彼らとの関係に響いてくる。そこで、無慈悲な取り締まりを行う労働者糾察隊に外注、すなわち「アウトソーシング」しているわけだ。

警察にとって「ワイロ集めのアウトソーシング」のメリットは他にもある。

普段、警察官は制服を着ているため正体がすぐバレてしまい、商人達は、没収されそうな商品を隠してしまう。しかし、労働者糾察隊は私服で巡回するので、商人に気づかれることなく、絞り上げることができるのだ。

北朝鮮当局にとっては、効率のいいワイロ集めだろうが、もちろんこれは収奪以外の何物ではない。こんな悪習が、市場経済にいい影響を与えるわけもなく、庶民生活に悪影響を及ぼすだろう。

そして、市場経済の停滞は、結局は警察官や地方機関を苦しめることになる。

税金制度が存在しない北朝鮮では、ワイロを含む市場の利権こそが、地方行政機関の貴重な収入源だからだ。

本欄やデイリーNKジャパンでは繰り返し報じているが、北朝鮮では、建前上の計画経済や、それを支える配給システムは既に崩壊し、市場が北朝鮮経済を牽引しているのだ。

しかし、北朝鮮当局は、決してこの現実を受け入れようとしない。税金、法律などの新しいシステムが整備できないからだ。状況は今年だけではなく、長年続いている。北朝鮮庶民の苦しみはいつまで続くのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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