北朝鮮の兵役は世界最長の13年だ。年数の長さもさることながら、休暇も1年に15日のみで、それすらも与えられないケースが多い。

つまり、一旦軍隊に入れば、よほどのことがない限り、10年以上も親兄弟と会うことがままならない。辛い軍隊生活を終えて、除隊しても、炭鉱や山奥の農場に配置されるケースもある。また、兵役を勝手に延長させられたことに不満を抱き、兵士たちが集団脱走する事件も起きている。


しかし、最近では「裏ワザ」を使って休暇を得る兵士達も増えつつある。

その裏ワザとはワイロ。部隊から兵士の実家に対して要求される「課題物」という名の「現物ワイロ」を調達できれば、特別休暇をもらい実家に帰られるのだ。

ただし、こういった物資を調達できるのは、経済的に余裕のある家に限られてくる。幹部の息子などは、物資を頻繁に調達することから、月に1回の休暇をもらえる。なかには、1年のほとんどを家で過ごす兵士もいるぐらいだ。庶民層出身の兵士やその親の間では、当然のように怨嗟の声が上がっている。

部隊が要求する「課題物」は、冬の訪れとともに変わる。総じて北朝鮮の道路事情の悪い。軍部隊は山奥にあることも多く、大きな荷物を持っての移動が困難になるため、現物ではなく、現金を持ってくるように要求されるという。

たった1回の休暇で要求される額は、50万北朝鮮ウォン(約7500円)。コメが90キロ買える額。庶民にとっては、大きな負担だが、親はなんとかしてかき集めようとする。息子の命がかかっているからだ。

部隊によって差はあるが、軍隊の食料事情は依然として劣悪だ。兵士にもかかわらず、軍部隊の食料調達のため山菜採りに駆り出されるほどだ。

商売が出来る民間人と違い、兵士は配給の食料に頼らざるを得ず、栄養失調が蔓延している。実家に帰ってごちそうを食べて精を付けることは、命を繋ぐことでもある。

また、部隊の幹部としても、兵士をどんどん休暇に送り出して、物資を調達することは、部下と自分の家族を守るために欠かせない。軍人の給料は幹部であっても極めて安く、家族が食いつなぐには、妻が市場で商売しなければならないが、山奥の部隊ではそれもままならないからだ。

市場経済化による貧富の格差が軍隊の中にまで影響を及ぼし、兵士たちの士気はダダ下がりだという。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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