金正恩第1書記の「お言葉」に、北朝鮮メディアが振り回されているようだ。

金正恩氏があたかも「労働党大会が延期」と解釈されかねない発言をしたことから、北朝鮮メディアが遠回しにそれを修正するという事態が起きた。

まずは、経緯を振り返ってみよう。

北朝鮮の朝鮮中央通信は16日未明、金正恩氏がナマズ工場を現地指導した記事を配信。このなかで、金正恩氏は、「朝鮮労働党第7回大会が開催される翌年10月10日まで(後略)」と述べた。

北朝鮮は、来年5月に36年ぶりの朝鮮労働党大会の開催を決定しており、国中挙げて大会に向けたムード作りをしている。

金正恩氏の言葉は「大会が開催される翌年10月10日」、すなわち「5月から10月に延期」と、捉えられてもまったくおかしくない言い回しだ。

労働党大会が延期となれば大ニュースだ。朝鮮中央通信の記事が配信された直後から、日韓などのメディアが「労働党大会延期か」と報じた。いくら独裁国家の北朝鮮といえでも、36年ぶりの国家行事が、現地指導での一言で変更になるというのは異常だ。

しかし、言うことを聞かない幹部をこれまで無慈悲に粛清・処刑してきた金正恩氏なら、充分にあり得ると思っていたら、午後に奇妙なことが起こる。

朝鮮中央通信は、またもやナマズ工場に関する別記事を配信。今度は、問題となった金正恩氏の言葉と、その後にとってつけたように「大会は5月に開催される」と明記しているのだ。記事が配信された午後というタイミングや、内容から、明らかに「労働党大会延期か?」というニュースに対する否定記事だ。

もちろん、金正恩氏が発した言葉を訂正・修正するわけではなく、さりげなく「誤解を招く言い回しだったので、付け加えました」といったところだろうか。

北朝鮮で、金正恩氏の言葉は絶対的なものである。現地指導の際、老幹部をはじめ周辺の人物が、最高尊厳・金正恩氏の言葉を一言一句漏らさないよう、メモを片手にしている様子が見られる。

間違った発言を配信したり、勝手な解釈で修正などしたら、粛清が待っている。今年6月、スッポン工場で金正恩氏が、激怒し、後に同工場の支配人が銃殺されたのと同様のことが起こってもおかしくはないからだ。

とはいえ、問題となった最初の「大会が開かれる翌年10月10日」発言も、若干遅れて配信された英・日・中・西の外国語版記事では、割愛されていた。おそらく朝鮮中央通信の編集部が、誤解されかねない言い回しだったことから、さり気なく割愛したのではないかと筆者は見ている。外国語版記事での割愛は、一般的であり、なんとか言い訳はできる。ただし、ハングル(朝鮮語)版では、それが出来ない。

北朝鮮が独裁国家である限り、「最高尊厳のお言葉」に振り回されるのは致し方ないだろう。しかし、一日も早く北朝鮮メディアの民主化が進むことを望む。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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