北朝鮮のガールズグループ「モランボン(牡丹峰)楽団」の中国公演ドタキャン騒動の真相がおぼろげながら見えてきた。

本欄では、金正恩第1書記の「水爆保有」発言に中国側が不快感を示し、公演を観覧する幹部を大幅に格下げ。これに激怒した金正恩氏が「報復」に出たとする見方を紹介した。

そんななか、韓国の情報機関は、モランボン楽団が予定していた公演内容に問題があったと指摘する。では、何が問題だったのか。

モランボン楽団に限らず、北朝鮮の文化芸術の柱は、故金日成主席、金正日総書記、そして金正恩氏の偶像化がバックボーンだ。公演から金正恩氏偶像化の演目を除外したら、そもそもモランボン楽団の公演自体が成り立たず、そのことは、中国も公演前からわかりきっていたはずだ。

ということは、金正恩氏の偶像化が問題視されたとは思えない。

それよりも筆者は、公演のなかで、核や長距離弾道ミサイルを賞賛する演出が中国側を刺激し、それに北朝鮮が反発したという見方に注目する。

北朝鮮、いや金正恩氏としては、長距離弾道ミサイルを賞賛する演出は必要不可欠だったと思われる。なぜなら、モランボン楽団公演初日の12月12日は、北朝鮮が長距離弾道ミサイル「銀河3号」の発射を成功させた記念すべき日だからだ。

今から3年前の2012年12月12日、北朝鮮は中国や米国をはじめとする諸外国の警告を無視して、長距離弾道ミサイル「銀河3号」の発射を強行した。翌年のモランボン楽団の新年公演では、バックスクリーンに流されたミサイル発射のシーンに、観客はスタンディングオベーションで応え、会場はお祭り騒ぎになった。

2011年12月に北朝鮮の最高指導者となってから1年を迎えた金正恩氏にとって、2012年12月12日は特別な日なのだ。

金正恩氏が、各種ミサイルに相当なコダワリをもっていることは、動画からも明らかだ。12月12日に、中国・北京のど真ん中で、長距離弾道ミサイル銀河3号を激賞する演出が出来ていれば、さぞかし溜飲が下がったことだろう。

しかし、公演は中止。そして、中国にとっては、またもや中朝関係の汚点の日になってしまった。

銀河3号の発射は、中国政府を大いに刺激した。さらにその翌年の2013年、金正恩氏は、親中派といわれていた張成沢氏を無慈悲に粛清・処刑。その日がまさに12月12日だった。そして、中朝関係は本格的な冷却状態に陥る。

昨年は、大きな動きはなかったが、今年10月、朝鮮労働党創建70周年記念に中国共産党序列5位の劉雲山氏が出席し、中朝関係に雪解けの兆候がみえた。そしてモランボン楽団の公演で、本格的な関係改善の流れができるはずだったが、公演初日の12月12日にドタキャン。

金正恩氏が、あえて12月12日に狙いを定めてモランボン楽団を派遣していたとするなら、その目論見は外れた。一方、中国にとっては、この日は「忌まわしい記憶」として記憶されるだろう。双方にとって得る物が何一つない、ドタキャン騒動になってしまった。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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