北朝鮮のガールズグループ「モランボン楽団」が10日から、功勲国家合唱団と中国を訪問。12日から3日間、初の海外公演が行われる。

金正恩第1書記によって結成されたモランボン楽団は、その独特な音楽性から世界中にファンを持つ。以前、東南アジアツアーの噂が流れた時は、日本のNK-POP(北朝鮮ポップス)ファンからも「是非、行きたい!」との声が上がるほど、熱い視線が注がれている。

北朝鮮からも今回の中国公演に対する意気込みが感じられる。朝鮮中央通信は10日、「モランボン楽団は世界的なおしゃれ楽団」と自画自賛する記事を配信。モランボン楽団の「誕生秘話」を明かしながら、中国公演に向けた宣伝を繰り広げた。

今回の公演は中国側の招待による文化・芸術交流と銘打っているが、その裏に中朝双方の政治的思惑、すなわち中朝関係の修復があることは言うまでもない。

権力の秘部を「知り過ぎた女たち」

そんな大役を担うモランボン楽団は、金正恩第1書記が直々に結成させた「金正恩時代」を象徴するグループだ。その美貌と芸術的技能の高さから「喜び組」と勘違いされることがあるが、これは違う。

喜び組は、北朝鮮で「5課処女」と呼ばれ、早ければ16、17才の少女、そして特殊任務で死亡した国家機関員の未亡人などが選ばれる。厳しい審査を経て課せられるのは、高級幹部の「身辺」に関わる仕事だ。そうして最高権力層の隠微な秘部を「知りすぎた女性たち」となるだけに、家族との連絡も断たれ、一生涯を国家に捧げなければならない「影の存在」なのである。

一方、モランボン楽団のメンバーたちは、幼少期に才能を見いだされ、厳しい競争を勝ち抜き、北朝鮮音楽界の頂点に立つタレント集団だ。まさに表舞台における北朝鮮の「顔」であり、少し大げさに言えば、今回も金正恩氏の代理として訪中するようなものなのだ。

喜び組、5課処女が「月」とするなら、華々しい活躍をするモランボン楽団は「太陽」といったところか。

公開処刑の悲劇も

しかし太陽だからといって、無条件に安泰でいられるわけではない。地位の高い芸術団といえども、過去にもあった「淫乱動画スキャンダル」のような事件に巻き込まれたら容赦なく粛清・処刑される。

今年3月には、金正恩氏の夫人・李雪主氏も所属していた銀河管弦楽団の芸術関係者が、「韓国人スパイ」と関係をもった容疑で公開処刑されている。それも、400~500人の前に引き出し、機関銃で体を粉々にするなど残忍な処刑方法でだ。

今回は、初の海外公演だけに、楽団の面々が様々な誘惑に駆られることもあり得る。まして、中朝関係の修復という国家レベルの使命が与えられているのだ。公演後に数人のメンバーがいつの間にか見られなくなったという事だけは起こってほしくない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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