来年夏の参院選で、安保法制反対派からの巻き返しを警戒する安倍政権は、外交で得点を稼ぐ必要に駆られている。日本人拉致問題が、そのための重要なテーマであることは言うまでもない。少なくとも当面、安倍政権の内部では北朝鮮を追い込むよりは対話を模索するベクトルが強まるはずで、失敗したと見られているSLBM実験にこだわる気はないのかもしれない。
こうした日米韓の態度はいずれも、「北のSLBM技術は未熟だ」「まだ時間がある」との認識が背景にあるのだろう。
しかし過去を振り返れば、そんなことを言っている間に、北朝鮮が核武装してしまった現実がある。その教訓を踏まえられないのは、重大な過ちにつながりうる「感覚のズレ」と言わざるをえない。現に、北朝鮮がSLBMを完成させる日は、意外に早いとの専門家の指摘もある。
それに、集団的自衛権の行使に舵を切った日本は、今までとは違う角度から北朝鮮の軍事情勢を見るべきではないのか。いまや日本は、北朝鮮の脅威を受け身で語っていてはダメなのだ。何故なら場合によっては、海上自衛隊が北朝鮮のミサイル潜水艦に先制攻撃を加え、撃沈すべき事態があり得るからだ。
この辺の問題については、日本のマスコミも突っ込みが足りない。安保法制に賛成するにせよ反対するにせよ、軍事情勢に関心を持てないなら、安保を巡るどんな主張にも意味がないのではないか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。