北朝鮮において農村は、長らく「負の象徴」だった。権力闘争に敗れ、或いはちょっとしたミスが重大事として断罪され、平壌にいられなくなった人々が追いやられてくる。およそ「文明」とはかけ離れた暮らしを強いられる「化外の地」なのだ。

平壌郊外の将泉野菜専門協同農場の温室。党幹部用の野菜を栽培しているところで一般市民の手には届かない。(画像:朝鮮の今日)
平壌郊外の将泉野菜専門協同農場の温室。取れた野菜は党幹部に配給され、一般市民の手には届かない。(画像:朝鮮の今日)

ところが市場経済の発展で農村も変わりつつあり、ついには北朝鮮の社会主義体制の中で「敵対階層」に区分されてきた「富農」までが、新たに登場するようになった。

イチゴのために「寝ずの番」

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、冬場にビニールハウスで野菜や果物を栽培、平壌のニューリッチ――トンジュ(金主、新興富裕層)に売って、大儲けしている農民の話を伝えてきた。

ハウス栽培は主に、平壌から北に70キロのところにある安州(アンジュ)から徳川(トクチョン)にかけての炭鉱地帯で行われている。ビニールハウスの温度管理に欠かせない石炭が豊富だからだ。

まずは、空いた土地に畑を作る。次に市場で栽培に必要な資材を購入する。ビニール幕、種、イチゴやキュウリの苗など大抵のものは手に入る。水だけは、井戸や水路を掘って自力で調達する。

骨組みに、中国製のビニール幕を三重にかぶせるとハウスの完成だ。次に様々な野菜や果物を植えていく。コンロに石炭をくべて温度管理を行う。しかし、それだけでは栽培はうまくいかない。

例えばイチゴは、きめ細やかな水の管理が必要だ。怠るとすぐに収穫量が減ってしまう。農民は、噴霧器を使ってイチゴの葉1枚1枚丁寧に水をかける。冬場にはビニールハウス内で寝泊まりすることすらあるという。

ロシア出稼ぎより高収入

家族が栽培から販売までを分業で行っているため、細かい対応ができる。「土地は自分のもの」という意識が持てない協同農場の農場員ではできない細かさだ。 何をどれだけ作るかは、平壌の業者とあらかじめ話し合って決めておく。収穫した野菜や果物は平壌に住むトンジュ向けに出荷される。毎朝、新安州の駅には、各地からキュウリやイチゴを満載したトラックが集まる。作物は列車で平壌の市場に運ばれる。

こうして栽培された野菜や果物は、かなりの高値で取引される。例えば、イチゴの卸売価格は1キロ15000北朝鮮ウォン(約225円)だ。これはコメ3キロ分の小売価格に匹敵する。それが、2月16日の光明星節(金正日氏の誕生日)ともなると、倍に跳ね上がる。

冬場の野菜や果物は、平壌のトンジュ間で非常に人気が高い。通常、市場では「ツケ」での取引が可能だが、冬場の野菜、果物はツケが効かないほどだという。

こうして得られる利益は、1シーズンに2000ドル。酷寒のロシアで木材伐採などに従事するより、はるかに儲かるという。そして、多額の現金だけではなく、経験を通じて高度な栽培技術も手にすることができる。もはや、チュチェ農法は要らないのだ。

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